第44話
そこから先はあまり良く覚えていないが、いつからかブラインが傍にいて、気がつくと俺は病院にいた。
「あの女は…。」
「無事に意識はあるようですが、どうやら記憶喪失を患った可能性があるようです。」
「生きているのか…?」
「ええ。ただ、病院が様々なデータを照合しようと試みているのですが…。彼女に関するデータどころか戸籍も見当たらないようで。」
やはりあいつが「ウィレット・ジェシー」なのか。戸籍が無いということは彼らの隠し子ということで間違いないだろう。というか、なんで生きているんだよ。
「退院後は児童保護施設に送られる予定だと…。」
施設に送るか…。
表向きは児童保護施設だが、実際は劣悪な環境で子供を奴隷のように働かせる搾取施設だ。ある程度まともに育った奴は人身売買で売り飛ばして利益を得ているとの噂もあり信頼はできない。
何があっても施設に渡してはいけない気がした。
それに、名前も戸籍もない『存在しないはずの女』を見捨てるほど俺の心は腐ってない。
「そいつ、うちの屋敷においておけないか?」
ブラインは不思議そうに俺を見つめた。
「あんな身体能力があるんだ。何かに利用できるかもしれない。」
そう言ったのは、彼女をかくまう理由をはぐらかすためだ。
「では、ボディーガードということでしょうか…?」
「ああ。それでいい。」
本当は、俺を救ってくれたあの女を幸せにしてやりたいと思っただけだ。
***
次の日
「例の少女は207号室に入院されているようです。もう体調も回復されているようですし、お礼を伝えに行かれてはいかがでしょうか。」
ブラインはそう言って俺の病室やってきた。
「そうだな。ついでにうちで働く気があるかも聞いてみよう。」
そう言ってベッドから出た。俺は検査のため入院させられているものの、あの女のお陰で傷ひとつついてない。魔法を使われなかったのに、あの高さから俺を無傷で守るなんて何者なんだよ。
階段を上がって207号室にたどり着くと俺は扉の前で立ち止まった。
ブラインは後ろから静かに俺を見守っている。
そこで俺は突然に余計な不安に駆られた。
もし、あいつが俺の正体に気が付いていたら…。あいつの正体がブラインにバレたら。よく考えたら、ウィレット・ジェシーを側においておくのは危険か。
「レイ様。緊張しておられるのですか?」
ブラインはそう言って俺の代わりにわざと扉をノックした。
「失礼します。」
「ちょっと待て、ブライン…!」
まだ心の準備ができていない俺をお構い無しにブラインは部屋に入っていった。
(ブライン…!お前、なに笑っているんだよ…!)
俺も仕方なくブラインの後に続いて中に入ると、そこには美しい女が眠っていた。
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