第42話

「痛っ…。」

  

 稲光に打たれたかのような激しい頭痛に襲われて、私はすぐにレイ様から離れた。


 レイ様は頭を抱えて床に倒れこむ私を支えてくれた。

  

「大丈夫だ。俺が側にいる。」

 

 レイ様がそう言って私の手を握ってくたのと同時にもう一度激しい頭痛に襲われた。

 

 ***

 

 ここは…。父と母が殺られる瞬間の記憶か。

  

 私が父に近寄って、庇おうとしたせいで父は死ぬんだっけ。

  

 もう一度この記憶を見るなんて、誰の仕業か知らないが意地が悪いだろう。

  

 以前見た記憶と同じように、なすすべなく父は潰され、私に転送魔法がかかって…。

 前回と何も変わらないではないか。私はこのまま森に転送されて…。

  

 その時のことだった。

 

「ジェシー!かたきを打ちなさい。そうすればあなたは自由になれるわ…!」 

 

 そう言った母は苦しそうに血まみれの右手を私に向けて、呪文を放った。

 

「マルディシオン!」 

 

母の叫びと同時に父の魔法がかかり、私は森に転送されるのであった。

  

 *** 

 

 「はぁ…はぁ…。」

 

 気が付くと私は現実に引き戻されていた。

  

「ティア…。平気か?」

  

 レイ様はそう言って倒れこんだ私を支えてくれた。

 

 「大丈夫です。でも…。」

 

 今の記憶の中に、未来に戻る手がかりがあったというのか?前回とほとんど同じ記憶しか見られなかったということはおそらくそういうことだろう。

 

 「どうやら私は未来に戻れないようです。」

 

 そう言ってレイ様の顔を見上げた。

 

 「どういうことだ?」

  

 だって、レイ様を殺さないといけないのでしょう?

  

 そんなことできるはずがない。レイ様の犠牲の下、私が前世に戻るのであれば、いっそ前世に戻らない方がマシだ。 

 

 母が私にかけた魔法は「呪い」の効果がある。誰かの命と引き換えにかかるあの呪いは、老化の速度を遅くする効果があると聞いたことがある。どうにかして生きながらえて、かたきを打てということだろう。

  

「私が前世に戻る方法は、不可能に近しいものでした。」

 

「どうしてだ?」

 

『あなたの犠牲が必要です』とは言えないので私は黙って俯く。

  

「レイ様にどれほど協力していただいても、私には不可能な条件でありまして…。」

 

 レイ様と目が合うと、自然と涙が流れた。 

 あなたを殺すなんて、できるはずがないでしょう。 


 だったらこの先ずっと、レイ様と共に過ごそう。


「約束します。私は生涯あなた様にお仕えし、レイ様を守りぬきます。」 


  


 

 世界を敵に回したって、私があなたを守るから…!

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