第41話

 全ての記憶を取り戻すためには、どうやらもう一度レイ様とキスする必要があるらしい。 

 

 というか、なんでこんな幼稚な世界に転生してるんだよ…!

  

「だったら、レイ様からしてください。それでやることやったら前世に戻りますから。」 

 

「お前からじゃないとダメだ。」

 

はぁ…?なんでだよ?

 

「お前の意思で記憶を取り戻すためには、お前から俺にキスする必要がある。俺からだと俺にとって都合のよい記憶しか見せられないんだ。そうなるとお前は前世に帰れないだろう?」

  

そしてレイ様は続ける。 


 「俺が今までどれだけ我慢してきたと思ってるんだ?」

  

 ちょっと待て。つまり今までレイ様が私に興味を示さなかったのは、そういうことだったのか…? 私の記憶が戻るから、レイ様は私に手が出せなかったということか。下手なことをして、中途半端にしか記憶が戻らなかったら私が困るから…。

 

「それなら、どうしてレイ様からキスしなかったんですか?中途半端な記憶だけ見せれば私は前世に戻れなくなる…。」 


 レイ様は悲しい表情を浮かべると顔を背けた。 

 

「ほんの少しでも過去の記憶を見てしまえば、お前は気が付くだろう?そうなるとお前と一緒にいられなくなる…。今だってお前は…。」 

 

 もう俺を「主人」だと思っていないだろう、と呟いた。


 レイ様の小さな背中を見ていられなくなる。


 「いつから気づいていたのでしょうか?」


 私の質問にレイ様は「最初からずっとだ」と答えた。


 「お前の両親を殺った時にお前とは一度会っているからな。俺を助けてくれたのがお前だと気が付いた時には嘘かと思ったよ…。」 

 

 だったら、なんで早いうちに私に事実を伝えてくれなかったんだよ。さっさと記憶を見せて前世に帰せばそれで終わるし、なにより敵である私を傍においておく必要なんてなかったのではないか。 

 

 私を殺せばレイ様も将来は安泰なのに。

  

 「俺のせいでお前の一家が全滅した。世間にもウィレット一族の子供など知る者はいない。挙句の果てに本人まで記憶喪失となると、『ウィレット・ジェシー』は世界のどこからもいなくなってしまう。だから俺はお前を傍においた。」 

 

 世界で一番安全な場所に『ティア』をおいてくれた。そこが時に世界で一番危険な場所であるから、私を必要としてくれた。 

 

 「俺はお前に嫌われて当然のことをした…。だから…。」 

 

 「ふざけないでくださいっ!」

  

 居場所のない私を傍においてくれて。 一人ぼっちの私が寂しい思いをしないように、常に傍にいてくれて。私が前世に戻れるようにずっと気持ちは抑えてくれていて。 

 

 そこまでして、どうして「嫌われても仕方がない」なんて言えるんだよ。魔王なんだから、「逃がさない」とか大胆なこと言ってよ。

 

先ほどのキスも今度のキスだって。全部意気地ないレイ様に対するお仕置きだから。 


私はレイ様の唇にそっと口づけを交わした。 

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