第40話
9日目
カチャカチャと物音がして、私は目を覚ました。音のする方を見るとレイ様は朝食の準備に取り掛かっているようだった。
体を起こそうとすると、今日もブランケットがかけられていたことに気づく。レイ様がかけてくれたのか…。
その優しさですら、今は計算されたものかと思えて怒りが込み上げてきた。
「おはよう。ティア。起こしちまったか…?」
なんと答えようか迷うが、ひとまず私も彼と同じように演技をしようと思い笑顔で返した。
「おはよ。朝からありがとうね。」
そう言って立ち上がるとレイ様も笑顔を見せた。
あの笑顔が辛気臭くてしょうがない。せっかくだから化けの皮を剥いでやろう。
私はあえて笑顔で口にした。
「申し訳ありません。昨晩眠れなかったので、一度リビングへ来たのですが、まさかまたソファーで寝落ちしてしまうだなんて…。」
「ほんとうだよ、朝起きてお前が隣にいなくて焦ったんだぞ?」
「ウソつき。」
顔を上げながら私はボソッと呟いた。
レイ様も少し驚いたような表情をして、私とじっと目を合わせた。
「何が言いたいんだ?」
「言葉の通りですが。わかりません?疑っているんですよ。」
私は決別したような目でレイ様を見て、リビングを出ようとした。
「ちょっと待て。」
レイ様は私の腕を掴んで引き留めた。
「離してくださいっ!」
私が攻撃をすると気が付いていたのか、レイ様はがっしりと腕を掴んで離そうとしなかった。
「お前なんのつもりだ?」
レイ様はそう言って眉間にシワを寄せた。
「そっちこそなんのつもりですか?ずっと私の事をだましていたんですよね?」
「…!」
レイ様は驚いたような表情をした。やっぱりこいつ気が付いていたのか。
「どうしてお前がそれを知っている?」
レイ様はそう言って私を壁に押し寄せた。正面にはレイ様がたちはだかり逃げられない。
なんでって…。それは聞かれたら困るかもしれない。だって私が勝手にキスして記憶を取り戻したわけだから…。
「もしかして、お前、俺にキスしたのか…?」
レイ様はそう言ってニヤリと笑った。
「お前の事だから、もうちょっと大胆にやってくると思ったのに。まさか寝てる隙を狙うなんてずるいぞ?」
どっちのセリフだよと思うが、私は何も言えなかった。
「記憶は全部復活したのか?」
私は首を横に振る。
「今までの状況は全て理解した。でも、前世に戻る手掛かりは得られなかった。」
そう呟くとレイ様は耳元でささやいた。
「記憶の続きを見るのは簡単だぞ?もう一度お前が俺にキスすればいい。」
「…。」
勝手に顔が赤くなっていく。
なんで、キスしたら記憶が戻るという幼稚な発想の世界に転生しているんだよ…!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます