真相編
第38話
「っ…!痛い…!」
私は頭を押さえてすぐさまレイ様から離れた。
「はぁっ…。はぁ…。」
息が上がって無意識のうちに肩を揺らして呼吸をしていた。
今の痛みは何…?
ほんの一瞬の出来事だった。しかし何十年もの時が経過したような感覚に襲われた。
落ち着け。私…!
ベットに倒れこんだ私は頑張って眠りについた。
***
空が透き通った心地の良い日のことだった。
せっかく天気が良いのだから、どこか外に遊びに行こうと両親に提案した。
ここのところ両親は何かにとりつかれたかのように外に出なくなった。案の定、今日だって両親は首を横に振り、外出作戦は失敗に終わった。
仕方ないからお気に入りの本でも読もうか。それとも魔法化学の勉強でもしようか。ひとまず自分の部屋の本棚に行って考えよう。そう思って屋敷の階段を上っていた時の事だった。
ズドーンと大きな振動が全身を伝って、建物が大きく揺れ始めた。
細い柱やもろい窓ガラスはすぐに粉々に砕け、やがて大きな屋敷は半壊した。
「お父さん…!お母さん…!」
何メートルもある廊下を駆けて、急いで両親のいたリビングルームに戻った。するとそこには吊り上がった目尻に、ごつごつとした黒っぽい皮膚をまとったバケモノがいた。
「はっ…!お母さん!」
母はそのバケモノにわしづかみにされて身動きが取れなくなっていた。
「おかあさん…!!」
「ジェシー…!今すぐここから逃げなさい!」
先に私に気が付いたのは父の方だった。
父はまだ無傷であったので、心配はいらなそうだ。
「お父さんどうしてこんな…?」
どうしてこんなことになっているのかと尋ねようとした。
その瞬間、黒いバケモノは父に向かって大きく手を振り上げていた。
「お父さん!危ないっ!」
「テレメタフォラールッ!」
父は私に転送魔法をかけようとしてくれた。
父がバケモノにつぶされるのが先か。それとも魔法を打ったのが先だったのか。
私がどこか知らない場所に飛ばされていたことで、父の転送魔法は成功したのだとわかった。
***
「ここ…。どこ?」
気が付いたら私は森の中にいた。立ち上がってとりあえず森を下るが、一向に茂みを出られそうにない。
「お父さん…。お母さん…。」
どこか近くにいるのかと思い、呟くように彼らを呼んでみるのだが返事はない。
そうだ。あの時たしか、父は私を助けようとして…。バケモノにつぶされたのか。
転送される直前に最後に見た父の姿は一瞬で変わり果てた。人間の約70パーセントは水分でできていると言っていたが、まさにそれを証明するかのようにグシャリとつぶれた。その光景を最後に、私はこの森に転送された。
「ぐっ…。」
思わず吐き気を催し私は地面にしゃがみこむ。
「お父さん…!お母さん…!」
今になって両親がここ最近家を出ようとしなかった理由が分かった。彼らはずっと命を狙われていたんだ。
もう一度、屋敷にもどらなくては。父は助からないかもしれないが、母はまだ息をしているかもしれない。今すぐにこの森を抜け出さないと。
私は必死に走って森を抜け出した。
走って、走って、街に出て。私のように必死に駆けている少年に遭遇した。
彼は何か気がかりな事があるのか、後ろを振り返りながら不安そうに走っていた。
もしかしたら、私と同じ境遇なのかもしれない。そう思って私は不思議と彼を追いかけた。
「危ないっ…!」
階段に差し掛かった直後、後ろを振り返った少年はバランスを崩して倒れた。
階段で後ろを振り返るなんて、冷静にバカだろうと思うが何となく彼を助けられる気がした。
急いで彼に追いついて、私は階段の最上段から飛び降りた。
「痛っ……。」
私が地面に倒れこむと同時に…。彼は私の上に倒れこんだ。
よかった、彼は大丈夫そうだ。
それよりも、私が…。
***
目が覚めると、隣にレイ様がいた。
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