第37話
レイ様の意向で、私の契約は延長されることになった。
以前は速く前世に戻りたいとも思っていたが、命令のため当分前世には戻れなさそうだ。(まあ戻る気もないし)
美澄玲奈は今頃どうなっているのだろうと気にならないわけではないが、前世に戻りたいと強く思わなくなった。
レイ様の側にいられるのなら、別にこのままでもいいかもしれない。
気がつかないうちに、魔王に心を奪われていたのであった。
***
窓の外に鳥がとまっていることに気が付いたのは昼食を食べ終わったあとのことだった。
レイ様はカラスのような黒い鳥に気が付くと、部屋の中に鳥を招き入れた。
「何するんですか…!」
「ブラインからの伝言だ。」
そう言ってレイ様は「よく来たな!」と鳥の頭をなでて褒めていた。
なんか、その鳥が羨ましいんですけど…と思っているとレイ様は右手を鳥に向けて、呪文を解き放った。
「フェルシュン!」
カラスはすぐに小さな紙切れに姿を変えた。どうやらブライン様からの伝言だと思われる情報が書き込まれているようだ。
やっぱりこいつすごい奴なんだな。
レイ様はメモの内容をじっと読み、すぐに顔をあげた。
「新しいボディーガードが決まったようだ。三日後からここに合流するらしい。」
ボディーガードの話か。レイ様は私をクビにするつもりはないと言ってくれたが、気が気ではない話題だ。
「ティアのことは俺の好きに判断して良いと書いてある。さすがはブラインだ。」
レイ様はそう言って満足そうな表情をした。
つまり私は…。
「もちろん、契約延長だな。」
レイ様はそう言ってにっこり笑った。だが、徐々にに不満そうな表情を浮かべた。
「どうかされましたか?」
私がさりげなく尋ねると、レイ様は呪文でもう一度紙を鳥に変化させ、私の方を見た。
「お前と二人きりじゃなくなる…。」
レイ様はそう言うと鳥を空に放すのであった。
こいつ、私のこと好きすぎるだろう…。
***
退屈だろうと思われた室内で過ごす一日はあっという間に過ぎていった。
家事をこなしているとそれだけで時間は潰せるし、レイ様とああだこうだ話しているだけで、勝手に時は過ぎていく。
夕食にはレイ様特製のミネストローネが出され、安定のおいしさに思わず笑ってしまった。
これからは新しいボディーガードの人が料理を担当するのだろうが、レイ様の料理がいいなと心の中で思った。
その後、特にやることのない私たちは、シャワーを浴びるとすぐにベッドに入った。
昨日は私がソファーで寝落ちしてしまったため別々の部屋で寝ていたが、今日はもちろん同じベッドで寝るように指示された。
「警護人なんだから、常に俺の傍にいないとだめだろう?」と魔王様に職権乱用されたのだが、内心嬉しかった。
今日こそ、この間の続きがあるだろう…。
意外にも、レイ様はコロリと寝付いてしまった。疲れていたのかもしれないが、私の存在を忘れてたかのようにすぐに眠りについてしまったのは残念だ。
別に、何も期待してないしと自分に言い聞かせながらあれこれ考える。
レイ様は私のことは嫌いではないようだし、というかブライン様が初めに言っていたように私のことが好きなのだと思うが、それにしても臆病すぎると思う。
魔王は人間と違って生殖本能が欠落しているのかと疑いたくなるほどにそんな雰囲気を見せない。
新しいボディーガードがここに来るのは時間の問題なので、もういっそ私からなにかしてみようか。
「レイ様。起きていらっしゃいますか?」
私は体を起こして呟いた。
返事がないようなので手を握ってみるがそれでも反応はなかった。
「…。」
すやすやと幸せそうに眠るレイ様を見ていると、無性に守ってあげなくちゃと思った。
普段は強気なことを言って私をからかうくせに、いざとなったら意気地なし。私だけその気にさせて本人は知らん顔して寝ているだなんて。
私はレイ様の頬を撫でた。
これでも起きないか。じゃあ、お仕置きだ。
私はレイ様の唇にそっと口づけを交わした。その瞬間の事だった。
雷に打たれたかのような激しい頭痛が私を襲った。
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