第75話 完全武装メイド

 しばらく経った後、レイドたちの馬車はバイセン邸の前に到着した。

 ダリラとの戦いで壊れた屋敷の一部は、既に立て直され真新しい壁になっていた。


「後続の馬車も庭の中に入らせよう。ここだと邪魔だしね。レイドとエレーヌは先に屋敷に入っておいて」


「ああ、分かった」


 そして、レイドとエレーヌは馬車から降り、玄関の方へ向かった。


(・・・懐かしいな。エレーヌと最初に出会った頃を思い出す)


 ――家族の後ろに隠れながら様子をうかがっていたエレーヌ。

 今でも鮮明に浮かび上がる。


「あの、懐かしそうにする気持ちは分かりますけど、前を見てくださいね?」

「え? ああ、すまない・・・」


 レイドはぼーっとしていて、今にも玄関にぶつかりそうだった。

 気を取り直して、扉を開ける。


「ごめんくださーい。・・・って、え?」


 ――中には、両手に武器を持ったメイドが待ち構えていた。

 彼女らも、何事かと一斉にレイドの方を向く。


「え? え?」

「・・・あらお客さん? なーんか見たことあるわねえ?」


「ただ今戻りました。・・・って、え?」

「・・・ん? お、おかえりなさいませ、エレーヌ様。・・・ぁ、あ~っ! あの人、エレーヌ様の婚約者よ!」


「あらま、本当だわ。すっかり忘れてた。さあさあ、お上がりください」

「あ、ああ・・・ すまない。ところで、なぜ武器を?」


「あらやだ、すみません。屋敷の兵士は全て出払ってしまったものですから、こうやって私たちが警備してるのですよ」


 そう言ってメイドは、丸太ほどにはあるだろうムキムキの腕を見せる。


(ああ、うん。いつもの風景だ。至って普通だな)

 ――それを見てレイドは、なぜか安心したのであった・・・


「まあ。はい。お仕事ご苦労様です。ところで、父さんはどこに居ますか?」

「それなら、執務室におりますわよ。・・・なんですか? 結婚報告とか?」


「・・・そんな感じです」

「キャア! まあ聞いた? 結婚したんですって! おめでたいわね!」


「・・・男としてはもっと筋肉が欲しいところよねえ。鍛えがいが・・・」

「もう、止めてください! さあ、行きますよ!」


「え? ああ・・・」


 好き勝手言うメイドたちを振り切り、レイドを連れて執務室の方へ向かう。

 昔と変わらない感じだったが、どこかに殺伐とした雰囲気があるのも確かだ。


(一年間、ずっと戦い続けていたのだろう・・・)

 ――そう思うレイドであった。


「レイド、執務室です。姿勢を正してください」

「分かった」


 そして、執務室の扉を開ける。


「・・・いや、ここを重点的に守るべきだ」

「何を! 敵は空からもやってくるのです。そこに集中するのはリスクが高い!」


「だがな、ここを破られると・・・」


 壁に貼り付けられた地図を見ながら、戦士たちと会議をしているラジの姿が見えた。

 後ろを向いていて、顔は良く見えない。


「すみません・・・」


 エレーヌがそう言うが、気付かない。

 すると、隣で座りながら話を聞いていたソニアが、レイドたちに気付いた。


「ちょっと、あなた・・・」

「ああ、何だ? ソニア?」


「ほら、レイドとエレーヌよ~」

「!!?? おお・・・」


「お久しぶりです、ラジさん」

「レイド、レイドか・・・ ああ、久しぶりだな! 回復したのか」


 ラジはレイドに向かい、そして、ハグをする。

 目からは涙が出ているのが分かる。

 一年前とは打って変わり、だいぶやつれているようだった。


「はい。何とか」

「ああ、ああ。よく帰ってきてくれた。そして、エレーヌも」


「・・・ラジさん。言いたいことが」

「ん? なんだ?」


「あの、俺たち、正式に結婚することになりました」

「あら、まあ! やったわね! エレーヌ!」


 ソニアは満面の笑みでそう言った。エレーヌも無言で照れている。

 対してラジはどこか不満気だ。

 

「・・・・・・・・・そうか。すまんな、本来は祝うべきだろうが、いかんせん余裕が無くてな」


「ええ、分かっています」

「・・・しかし、不思議なものだ。まだロイクは婚約者すら見つかっていないというのに」


 「あの子もこれを機に、妹離れをしてほしいものね~」


「んん、ゴホン。まあ、そういう話は置いといて、レイドが来たってことは、あの計画が始まるってことで良いんだな?」


「はい。他の皆もそろそろ到着する予定です」


「おお・・・ これは大きな援軍だ」

「これで戦局が変わると良いのだがな・・・」


 戦士たちも、顔色を良くしてそう言っている。


「・・・ご苦労。しばらくすれば、エマもやってくる。それまで、ゆっくり休んでおけ」

「・・・では、これで」


 そうして、レイドとエレーヌは執務室を後にした。


「まあ、エレーヌのドレスは何色がいいかしら? やっぱり髪の色に合わせて・・・」

「ソニア、まだ早いぞ!」


「ははは・・・」


 扉越しに会話が聞こえてくる。

 それを聞いて、レイドとエレーヌは苦笑いをすることしかできなかった。


「・・・とりあえず、部屋に行きますか」

「ああ、長旅で疲れたしな」


「・・・戦い続きの日々も、もう終わりです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る