第74話 アミアン、再び
「・・・なぜエマがバイセン領に居るんだ?」
「いやー それがよぉ・・・」
――カインの話をまとめるとこんな感じだ。
前世の記憶を持つエマは、黒き魔獣との戦争において有利になる情報を持っている。
だから、シャロン王国の各地から引っ張りだこのようだ。
今は、バイセン領に居るらしい。
「たまに手紙が届くぜ、あいつ、観光気分で楽しんでやがる」
「そんな能天気な・・・」
「おいおい、カイン。君の馬車はこっちじゃないよ~」
「お、そうだな。じゃあ、またバイセン領で色々話そうぜ」
「ああ、分かった」
レイド、エレーヌ、ロイクが同じ馬車に乗ることになる。
カインはその後ろだ。
早速、レイドは待機してある馬車に乗った。
「ふぅ~ これでしばらくは休憩だね~」
「兄さん、ちゃんと見張りもしてくださいね?」
「分かってるよ。兄ちゃんに任せておきな!」
馬車には屋根こそ付いてあるものの、いつでも上に登れるよう扉があり、上で見張りができるようになっている。
他の馬車も用意が整ったようで、動き始めた。
「・・・・・・」
「レイド、どうしたんですか? 車酔いなら、後ろにいるレシティアに・・・」
「いや、大丈夫だ」
「ああ、はい・・・」
レイドは今、あの夢について考えている。
――夢の人いわく、レイドたちの中に裏切り者がいると。
それをエレーヌやロイクに打ち明けるかどうか迷っていたのだ。
(・・・何を考えているんだ、俺は。また一人で抱え込むよりかは、一番信頼できる仲間に伝えた方が良いに決まってる!)
「エレーヌ、ロイクさん。今から他言無用な重要なことを伝えようと思いますが、良いですか?」
「・・・なんだい?」
「単刀直入に言います。私たちの中の誰かが、裏切っています」
「え? 私たちって・・・ レシティアとかも含めてですか?」
「・・・ああ」
「その根拠は?」
「・・・あの夢を見ました。そして言われたんです」
「・・・そんな、まさか」
ロイクにあの夢について、昔打ち明けたことがあった。
それもあってか、すぐに納得してくれたようだ。
「・・・そいつが嘘をついている可能性もある。けど、それが本当なら調べなくちゃね~
信じてくれてありがとう。誰にも言わないよ」
「・・・にわかには納得できませんね。疑わしい人なんて・・・」
エレーヌは自分の杖、フェイスをぎゅっと強く握りしめた。
彼女の顔には、恐怖の色が見え隠れしている。
「・・・エレーヌ。これ以上、仲間を失いたくないんだ。だから、嫌でも向き合わなくちゃいけない」
「・・・・・・そう、ですね」
「ということで、ロイクさん。頼みました」
「うん、分かったよ~」
しばらく、馬車は静寂に包まれた。
だんだんとエレーヌも落ち着いてきており、先ほどまで真剣な表情で聞いていたロイクも、いつもの状態に戻る。
そして、ロイクが沈黙を破った。
「ところでレイド、敬語を使うのはもう止めにしないかい?」
「はい?」
「なんか凄く遠慮されているようで、嫌なんだよね。長い付き合いじゃないか、僕たち」
「・・・まあ、もう身内ですしね」
そう小声でエレーヌは、レイドに耳打ちをした。
「エレーヌ? 全部聞こえてるよ?」
「何か間違ったことを言いましたか? そんなにイライラしないでください」
「ぅ・・・ クソッ」
緊張した雰囲気も、完全に溶けたようだ。
そうして、レイドたちは数日間、馬車に揺られるのだった・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
それからしばらく経ち、レイドたち一行はバイセン家領都、アミアン付近に到着した。
「・・・帰ってくるのはいつぶりだろうか」
「あ、そっか。レイドはこれが初めてだね。僕たちは何度か帰ってきているよ~」
「・・・戦いに、か」
「そういうことになるね~」
今のアミアンは、前の時よりさらに防衛用の兵器が増えている。
城壁の外にいる戦士たちも、数がだいぶ減っていた。
「戦士の数が減っているな」
「それは違います。みんな、城壁の中に籠っているんですよ」
「何故だ?」
「黒き魔獣たちが、自分から攻めてきてくれるからです。おかげで有利に戦えていますよ」
「・・・今は、ね。段々数が増えてきているらしいしね~」
「レイド、今回も貴方が頼りです。私も、全力でサポートします」
「ああ、分かった」
ガラガラガラ・・・
馬車は門を通過した。アミアン内は幸い、活気があるようだ。
「よし、今からバイセン邸に向かうよ。父上や母上に君の無事を伝えるんだ」
「・・・それは結婚の挨拶も含めてか?」
「・・・あんまり調子に乗らないでね?」
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