第73話 インテグリーの秘密
――約2000年前のシャロン王国。
当時のバイセン地方は、人間と魔獣の争いが絶えなかった。
バイセン地方の戦士、ジャン・コレルは、戦いのさなか、魔導士の一族の娘、ミアと結婚する。
両者の無事を祈るため、お互いに武器を交換した。
――あらゆる魔術を反射する剣と、
――竜の魔石を封じ込んだ杖だ。
愛で結ばれた二人が、共に魔獣を打ち倒していく物語である。だが・・・
「・・・嫌だ。どうか、死なないでくれ! ミア!」
「ジャン・・・ 悲しまないで・・・ 最期に、笑顔を、見せて・・・」
――演目は終盤に差し掛かっている。
死にゆくミアを、必死にジャンが食い止めようとしてるシーンだ。
「君の大好きな花を見に行く約束だっただろう? また森に一緒に入ろう」
「・・・ごめん、なさい」
「そんな顔をしないで、くれ・・・ ミア・・・」
「・・・・・・」
「ミア? ああ、私を置いていかないでおくれよ! ミアァァ!」
ミア役の演者は、静かに目を瞑りピクリとも動かなくなった。
観客たちの中には、静かに泣いている者もいる。
絶望した顔のジャンを最後に、この物語は幕を閉じたのであった・・・
「・・・終わりか。有名な話だし、結末は分かっていたが・・・ なんとも言えない気持ちになるな。なあ、エレーヌ。・・・
エレーヌ?」
エレーヌはレイドの腕に抱き着いたまま、動かない。
「・・・大丈夫だ。俺が死なせない」
「・・・はい」
(しまったな・・・ 戦場に出る前だっていうのに、余計に不安を与えてしまったか・・・)
そう後悔するレイドであった。
「さて、時間も経ったことだし、スイーツでも食べに行くか?」
「・・・レイド」
「ん? どうした?」
「貴方はなぜ・・・ そんなに前向きにいられるのですか?」
エレーヌは真剣な眼差しでレイドの方を見つめる。
その瞳は、不安と恐怖で支配されているようだった。
「・・・なんでだろうな。俺もいまいち分からない」
「・・・・・・」
「俺ももちろん怖い。ただ、エレーヌと生き残る道がそれしかないならば、俺は喜んで進んでやる、それだけだ」
「・・・そういうものですか」
「そういうものだ」
レイドとエレーヌは再び、歩き始めた。
「とりあえず、今は別のことを考えるべきだ。どうだ、スイーツ」
「私にその提案をしたこと、後悔させてやりますよ・・・」
「どれだけ食べる気だよ・・・」
そうして、刻々と一日が過ぎるのであった・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~翌日~
レイドたちは、闘技場の大きな会議室に集められたのだった。
ロイクやカイン、レシティアなど、全員がそろっている。
「さて、皆は準備を整えたかね?」
「準備バッチシだよ~ 将軍~」
ロイクの言葉に続き、全員が首を縦に振った。
「・・・では本題に移ろう。知っての通り、バイセン領の遺跡の調査だ」
「バイセン領か・・・ ラジのおっさんとか元気にしてるか楽しみだぜ!」
「多分、今日も黒き魔獣と戦って元気ピンピンだよ~」
「でしょうね・・・」
「ゴホン、良いかね? レイド君が復活したことにより、調査が可能になった。しかし、黒き魔獣との戦いが予想される」
レシティアの表情が硬くなる。隣に立っているロベルトに関しては憎悪丸出しだ。
「必ず、全員で勝つんだ! いいかね!」
「「「おう!!!」」」
「よし、さっそく移動の準備を開始するんだ。時間が惜しい」
「レイド、私たちは闘技場を出て、一番前の馬車です」
「分かった」
レイドとエレーヌは一緒に歩き出す。そこに、ロイクも付いて来た。
「やあ、僕も同じ馬車だよ~」
「・・・ロイクさん」
「ねえ、今の僕の気持ちが分かるかい?」
「・・・兄さん、もう良いじゃないですか」
「いいや! ここは兄としてのプライドが許さない! この戦いが終わったら、僕と決闘してもらおう!」
「はぁ・・・ 全く・・・」
どうやらロイクは、レイドとエレーヌが正式に結婚したことが気に食わないようだ。
「・・・じゃあ、勝ったら結婚式の費用、全額払ってくれますか?」
「!?? グギギ・・・ お高く留まりやがって・・・ 良いだろう! 盛大な式にしてやるさ!」
「約束ですよ?」
「・・・もちろん、男の約束だ!」
ロイクは胸を張って答えた。
「おい、レイド。楽しそうな話をしているじゃねえか?」
「カインか? どうした?」
「いやな? 忠告をしに来たんだよ。戦いが終わったらとかいうんじゃねえ。それをな、死亡ふらぐっていうんだぜ」
「何だ? その言葉」
「エマから聞いたんだよ」
(・・・そうだ、復活してからエマに一度も会っていないな)
「エマは今、どこにいるんだ?」
「バイセン領だぜ」
・・・は?
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