第72話 シャロン城下町にて その1

「着きました。私がいつも行く店です」

「はぁ・・・ はぁ・・・ もうちょっとゆっくり走ってくれ・・・」


 王都でもガラの悪いところに立地しているこの店が、エレーヌがよく行くところらしい。

 どう見ても大丈夫じゃない雰囲気が漂っている・・・


「さっそく入りましょう。 ・・・こんにちは~ 空いてますか?」

「お、おい・・・」


「・・・嬢ちゃんか、座っていきな」


 店? の中に入ると、強面の男が一人、キッチン? に待ち構えていた。

 客は・・・ いるようだな。


「さあ、座りましょう」

「おい、その連れ・・・ まさか・・・」


「え? 俺?」

「そうよ、お前さんのことだ!」


「ああ、回復したんです。つい今日」

「「「おおおおおお!!!」」」


 店内にいた全員から喝采が巻き起こる。


「よお、俺はここの店をやってる、ガーナーってもんだ。よろしくな、レイド」

「よ、よろしく・・・ 何故俺の名を?」


「それはよぉ、嬢ちゃんがいつもお前さんの事しか話さねえからだよ。つい先週だって・・・」

「!! 止めて! 止めてください!」


「へへっ、何だ~? 俺はただこいつに真実を伝えてやろうと・・・」

「それでも、話したらいけないこともあるでしょう!」


「ったく、つまらねえな。まあ、嬢ちゃんに逆らったら何されるか分からねえし・・・」


 ガーナ―は不満そうな顔をしながら、キッチンでの作業を再開した。


「まあいいや、今日は何をお望みで?」

「・・・じゃあいつもので、今日は2人前でよろしくお願いします」


「俺の分も頼んでくれたのか?」

「いや、違いますよ。あくまで私の分です」


「こいつ、凄い大食いだぜ? いつもより少ないくらいさ」

「・・・いつもは?」


「・・・嬢ちゃんの目線が痛いから止めとくぜ。それより、お前さんは?」


「じゃあ、そのいつものを、一人前で」

「おいおい? 彼女に負けてるぞ? いいのかよ~? ガハハ!」


 周りからヤジが飛んでくる。

 どうやらエレーヌは、かなり有名になっているようだ。


「さあ、待ちますか・・・」

「なあ、いつものやつってなんだ?」


「・・・まあ来たら分かりますよ」


 そうして少し経った後・・・


「へい、ジャイアントベアーのステーキだ!」

「ジャイアントベアー、か」


 ガーナ―から出された料理は、皿いっぱいに積まれたジャイアントベアーの肉だった。

 エレーヌはそれが二皿あるということになる。


「ふふふ、懐かしいですね。最近は”黒き魔獣”のせいで手に入りにくいんですよ・・・」

「そうか・・・」


「まあ、堅苦しい話は置いといて、食べちゃいましょう。頂きます!」


 しばらくの間、レイドたちは食事を満喫するのだった・・・



「ふぅ。ご馳走様でした・・・」

「おうよ、レイドもよく食えたな!」


「ははは・・・ これくらいなら・・・」


(は、腹が・・・ これは病み上がりには重すぎる・・・)

 ――余裕そうな発言とは裏腹に、凄く顔を真っ青にしたレイドであった。


 すると、急にエレーヌは真剣な顔になって、ガーナーに視線を向けた。

 

「・・・ガーナ―さん。また、しばらく帰ってこれそうにないです」

「・・・そうか。また、行ってしまうのか?」


「はい・・・」


 エレーヌは少し悲しそうな顔をする。

 レイドが知らない間に、色々あったようだ。

 

「大丈夫だっての。帰ったら、またたらふく食わせてやるからよぉ!」

「「「そうだ! そうだ!」」」


 他の常連客も一緒になって言う。

 

「レイドぉ!!」

「は、はい!」


「・・・お前さん、嬢ちゃんをしっかり守るんだぞ!!」

「当然だ。死なすわけがないだろう、俺が前衛に居るんだから・・・」


「よし! その意気だ! それじゃあ、また来てくれよな!」


 そうして、レイドたちはガーナ―の店から出るのだった。



 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「うぅ・・・ 腹がいっぱいだ」

「そうですか。満足してくれたようで何よりです!」


(いや、そういうわけじゃ・・・)


「さて、次どこ行きます? スイーツでも食べに行きますか?」

「ええ・・・? また食べるの?」


「・・・じゃあ何が良いんですか?」

「何って聞かれても・・・ ん?」


 レイドは街中に一際目立つ建物を見つけた。

 どうやら劇団のようだ。


「お、あれとか面白そうじゃないか?」

「・・・劇団ですか、いいですね、面白そうです」


 エレーヌはそう言って、演目の内容が書かれた看板を読み始めた。



 =シャロン劇団 今日の演目=


 シャロン王国創世記物語 ~英雄ジャン・コレルと神秘の剣~


 

「レシティアの先祖か」

「そうですね。面白そうですし、見ていきますか?」


「そうだな・・・ まだ時間はある」


 レイドたちは、その演目を見ることにした。

 神秘の剣・・・ 一体、それは何を表しているのだろうか? 

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