第70話 必死の形相
「率直に言うと、シャロン王国は今、窮地に追い込まれているんだ」
「はい、それはエレーヌから聞いています」
(今は、ロイクの話だけに集中しよう。他は考えるな・・・)
――レイドはそう考え、自分自身を騙している。
「そして、王国各地で急に”黒き人”や”黒き魔獣”が現れ、一部地域では完全に奴らに占領されている。ここまで分かるかい?」
「はい・・・ てことは、アミアンとかは・・・?」
「うん、今からそのことを話そうと思う。アミアンも、不穏な兆候が起きているんだ」
「不穏な兆候・・・?」
「すまない、ロイク君、そこから私に話を変わってくれないかね?」
「ミゲル教頭・・・ですか?」
「久しぶりだね、レイド君。私にもう教頭という役職は無いがな」
一年前よりも一段と貫禄が増し、白い髭を生やしたミゲルがそこに現れた。
「ミゲル将軍・・・ こんにちは~」
「しょ、将軍!?」
「ハハハ、これでも私は、教員になる前は軍職に就いていたんだ」
「はぁ・・・ なるほど」
「ゴホン、話を戻そう。アミアンについてだ」
「・・・・・・」
――それからのミゲル将軍の話はこんな感じだ。
まず、アミアンにもぽつぽつと”黒き魔獣”が発生し始めている。
しかし、アミアンの戦士たちは非常に強いため、大事には至っていない。
だが、段々と数が増えてきており、いつかは耐えられなくなるだろうということだ。
「・・・アミアンは”黒き魔獣”に対抗する重要な拠点だからな。絶対に陥落してはいけないのだ」
「・・・確か、あの遺跡のことですよね」
「そうだ。君が長い間眠っていたせいで、探索が全く進んでいない。今すぐにでも行きたいんだが・・・ どうかね?」
(断る理由は無い。早くに行ってしまおう)
レイドはそう考える。
「はい、分かりm・・・」
「ちょ、ちょっと待ってください・・・!」
以外にも、異論を挙げたのはエレーヌであった。
「レイドは今、回復したばっかりなんです。そんなに急ぐのは・・・」
「うん? アミアンは君の故郷じゃないのかね? 危ない状況なんだぞ?」
「そ、それはもちろん分かっています。しかし・・・」
「しかし? なんだね?」
エレーヌはしばらく何かを考えて黙ったままだったが、ついに意を決したのか、話し始める。
「・・・一年間失って気付きました。彼の存在がどれだけ大事だったことか・・・」
「何だ、急にのろけ話を・・・」
「次の戦い、またもや彼を失ってしまうリスクを考えると、どうしても・・・」
「・・・・・・」
最初は文句を言っていたミゲルだが、自然と黙り始めた。
「だが・・・」
「す、少しだけでいいんです! 私たちに、時間をくれませんか?」
「エレーヌ・・・」
エレーヌの必死の形相に、レイドも思わず口に出てしまった。
(思えば、俺は、エレーヌと・・・)
――エレーヌとレイドが出会ってから、戦いの日々が続いたりと、中々に忙しかった。
うん、何も恋人らしいことをしたことが無いな・・・
恋人らしいこと・・・ 自分でそう思うのも何かうぬぼれているようで、引っかかることがあるのだが、これは事実だ。
「・・・仕方ない。一日だけ。それ以上は取れないぞ」
「あっ・・・ ありがとうございます!」
ミゲルも観念したようにそう言った。
エレーヌはとても嬉しそうだ。 ・・・うん、なんだか照れるな。
「だが、流石にレシティア君とロベルト君には顔合わせをしておくように」
「はい・・・ 分かりました」
そうして、ミゲルはその場から立ち去った。
レイドとエレーヌもその様子を見た後に、そっと部屋から出ようとするが・・・
「え?」
――不意に、ロイクから肩を強く、とても強く掴まれた。
「お、し、あ、わ、せ、に、な?」
「ははは・・・」
(不味い、これ以上いたら殺されそうだ・・・)
――レイドはそう考え、逃げるように出たのだった・・・
「ふう・・・ 怖え・・・」
「・・・兄さんは相変わらずですね。まあ、それが兄さんらしいというか」
「・・・すまないな。本来は俺が言うべきだったが」
「いいんですよ。貴方がそういう人だと知っているので」
「・・・・・・」
(俺、エレーヌにどう思われているんだろう・・・)
そう心配になるレイドで合った。
「そういえば、俺たちはどこに向かっているんだ?」
「もちろん、レシティアがいる部屋ですが?」
「だが、皆あっちに居ただろう? なぜレシティアは・・・」
「・・・彼女にも、訳があるのですよ。さあ、着きました」
エレーヌはとある個室と思われる小部屋の前で止まった。
そして、扉をそっと開ける。
「失礼します・・・ レシティア、いますか?」
「あっ・・・ エレーヌ・・・」
――部屋の隅っこで何やら作業しているレシティアが、居たのだ。
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