第五章 覚醒
第69話 一年後の世界
しばらく、エレーヌはレイドの上で泣いているままだった。
刻々と時間は過ぎていく。
「・・・そろそろ落ち着いたか?」
「・・・・・・・」
エレーヌは、鼻をすすりながらも無言でうなづいた。
「一年って言ったよな」
「・・・はい。そうです」
「これまでに起こったことを、教えてくれるか?」
エレーヌの話をまとまるとこんな感じだ。
まず、マルクは死亡した。国賊という扱いになり、葬儀すら行われなかったらしい。
国王は、責任を取る形で退位。第一王子が実権を握ることとなった。
そして、もう一つ。それは、”黒き魔獣”が、本格的に攻めてきたらしい。
国王が即位していきなり戦争が始まったわけだ。
「・・・マルクと深い関わりがあった家は、全部取り潰しとなりました。つまり、貴方はもうユーラル家ではありません」
「・・・! それは、本当か?」
「はい。本当です」
「待ってくれ、エレーヌとの婚約はどうなったんだ!」
「今からそれを伝えようと思いました」
(伝えるって、何をだ・・・?)
――まさか、婚約破棄・・・?
「・・・なんだ?」
「レイド、今日から貴方の名は、レイド・バイセンとなります」
「ん? つまり、それって・・・」
「はい、正式に、今日を持って成婚です」
(ちょっと待ってくれ、結婚したのか?)
驚きの余り、声も出ないレイドだった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「こ、これから、その、よろしく・・・」
「は、はい。やっぱり、言うタイミングを間違えましたね・・・」
両者とも頬が赤く染まっていたが、混乱するふりをして何とかごまかそうとしていた。
しばらく、沈黙が続く・・・
「・・・あ、レイド、話は変わりますが、体は動きますか?」
「え? そういえば、一年寝ていたにしては、体が良く動くな・・・」
そう言って、レイドは肩を回し始めた。
体の衰えがまるで無いようだ。
「実は、一年間、ずっとレシティアが魔法を施してくれてたんですよ」
「あのレシティアが、か?」
「はい、あのことでかなり罪悪感を持っていたようで・・・ あとで挨拶しましょう」
「ああ、分かった」
レイド自身、レシティアには命を救われたと思っている。恨む気持ちなどみじんも無い。
(レシティア、レシティアと言えば・・・ はっ! そうだ!)
「お、おい! マリーはどうなったんだ!?」
「マリー、ですか・・・」
マリー、という名を聞いた途端、エレーヌは暗い顔になり俯く。
そして、何かを決心したように、再びレイドに顔を向けた。
「・・・付いてきてください」
「ああ、分かった・・・」
そうして、レイドとエレーヌは病室から外に出る。
「だいぶ大きな病院だな・・・」
「はい、今は。見覚えはありますか?」
「見覚え・・・? まさか!」
「はい。想像している通りです。ここは学園でした」
「学園・・・ 無くなったのか・・・」
「・・・”黒き魔獣”との戦いが始まり、ここは軍病院となりました。元々、マルクの件で半壊していましたし・・・」
そう話しながら、レイドたちは外に出た。
そして、何やら壊れた旧校舎の方へ向かう・・・
「・・・ここは、軍の集団墓地となりました。”黒き魔獣”との戦いで命を落とした戦士たちの墓です」
「なっ・・・ っ・・・」
――声がうまく出ない。どんな反応をすればいいか分からない。
さらに、エレーヌは奥へと向かっていく。
しばらく歩いた後、何やら大きな墓が現れた。
「彼女は・・・ ここに居ます」
(嘘だ・・・ 何かの悪い夢だ・・・)
――しかし、目が覚めることは、無い。
リヨンの街で出会ったマリー。エレーヌよりも先に知り合い、そして、戦友であり、命の恩人だった・・・
――何も考えられない。考えたくない。
今、目の前にある事実を、認めたくない。
レイドは呆然と突っ立っているだけであり、墓を見ようともしなかった。
「・・・まだ受け入れられない気持ちは分かります。一旦ここから離れて、皆のところへ向かいましょう」
「・・・・・・」
「・・・さぁ、行きますよ」
レイドはエレーヌに手を引っ張られ、引きずられていくように墓地から去っていったのであった・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
学園の敷地内を移動し、闘技場の辺りまで移動した来た。
学生で賑わっていたころとは打って変わり、今は兵士たちが機械のように訓練をしている。
「ここが、私たちの拠点です。さあ、この部屋へ・・・」
そうして、レイドは言われるがままに部屋に入った。
室内にいる人たちと鉢合わせする。
「おい、レイド、レイドじゃねえか! お、俺だよ、分かるか! カインだよ!」
「・・・レイド、復活しちゃったか~ てことは、け、け、結婚!? なっ、な・・・」
「カイン、ロイク・・・ 俺・・・」
「どうしたんだよ? そんなにやつれて、病み上がりだからか?」
「・・・彼は、あの墓を見てきたのです」
「ああ・・・ そうだね、痛ましいことだよ・・・」
ロイクが珍しく、痛ましい真剣な口ぶりになった。
カインも、苦汁を呑んだような顔である。
「・・・ひとます、レイドが無事でよかったぜ。ロベルトに、レシティアにも後で会っておけよ?」
「あ、ああ・・・」
「・・・レイド、いきなりですまないけど、今の状況を伝えたいと思う。いいかな?」
「・・・・・・」
ロイクの問いかけに、レイドは無言でうなづいた。
~あとがき~
ここまで読んでくれてありがとうございます!
第五章、開幕です!
「面白い!」
「続きが気になる!」
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