邪悪なる法王

クソデカいアンデットの一撃で辺りには悲惨な光景が広がっていた。あちらこちらからうめき声が聞こえる。

 グラジオラスは何処だ?無事なのか?いや、今はそんな事より。

「カクタス!いるか!」

 俺が大声で叫ぶと土煙の中からカクタスが現れた。

「ここじゃ!」

「今すぐスケルトンを出して負傷者の救出と搬送!すぐに大聖堂に運んで行け!」

「奴はまだ倒せていないぞ!」

「今は無理だ!とにかくこの場から今すぐ離れて体勢を立て直すのが先決だ!早く!奴が動き出すぞ!」

 俺の指示にカクタスは従ってくれた。無数のスケルトンを出して片っ端から倒れている人間を運び出して行く。

「リリーはいるか!」

「はい!」

 空からリリーが降りてきた。彼女は無事なのは分かっているから安心して指示ができる。

「グラジオラスを探してくれ。もしかしたらさっきの衝撃で頭が吹っ飛んでるかもしれない」

「分かりました」

 リリーはすぐに飛んで行った。

 俺の近くに岩の下敷きになっている修道士がいた。足が挟まり動けない様だ。流石のスケルトンも岩を動かす事は出来ない。

「うう、女神様……どうかお救い下さい……」

 かなり諦めている様だ。全く祈る前に助けを呼べよ。

「女神様に祈るのはまだ早いっての!」

 俺は持っているハンマーで足を押し潰している岩を叩いた。

 やはりこのハンマーは凄い。あんだけ大きな岩もあっという間に粉々だ。

「後はスケルトンに助けて貰え」

「ありがとうございます……」

 負傷した修道士はスケルトンに運ばれて去って行く。

「ウンスイ!無事だったか!」

 戦場のど真ん中にいたメリアは汚れてこそいるが元気そうにこちらに駆け寄ってきた。

「何とかな、それより勝手に指示を出してよかったか?」

「状況も状況だ、仕方ない。グラジオラス様も副団長も見つからないからな。それと奴らが動き始めた」

「デカいのも小さいのもか?」

「どっちもだ。我々は撤退しながら救出が完了するまで時間稼ぎをする」

「分かった。俺も大聖堂で待ってる」

「何を言ってる。お前も戦うんだ。人手が足りない」

「嘘だろ!俺はひ弱な一般人だぞ!」

「女神様の鎚を持っているだろう。それでアンデットを蹴散らしてくれ」

「ならいらない!お前が持てよ!」

「私には祝福を受けた剣がある。それはお前が使え」

 そんな口論をしてる最中でもアンデットは容赦なく襲いかかってくる。幸いアンデットの動きはトロく俺でも対処できる程だ。

 メリアと一緒に迫り来るアンデットを撃退して行く。俺だって早く逃げたいがこのまま救助者を放置して逃げれば目覚めが悪い。仕方なしに俺はハンマーを振る。肉体労働は専門外なんだよちくしょー。

 とにかく今はこの混沌とした状況を安定させないといけない。

「負傷者の救助は終わった!」

 カクタスが叫んだ。カスタスの報告と同時にメリアも叫ぶ。

「撤退するぞ!」

 俺達は迫り来るアンデットを倒しつつ聖都の大通りを進んでいく。あのデカいのもゆっくりと街を破壊しつつ俺達を追ってくる。

 いや、追ってきているのか、それとも大聖堂を目指しているのかは分からない。あれがアコナイトの怨念が取り憑いているのなら大聖堂を目指してもおかしくない。

 大聖堂には避難させた市民もいる。とにかく奴が到着するまでに何とかしないと大変な事になる。

 街には逃げ遅れた市民がまだまだいた。市民はアンデットを見るなり悲鳴を上げて走っていく。転ぶ者もいてその度に騎士達が立ち上がらせて避難させて行く。これじゃあ撤退が間に合わない。

「メリア!どうする!このままだと追いつかれるぞ」

「市民を置いてく訳にはいかない」

「はぁ、そうなるよなー」

 この街中で奴等を足止めしないといけない。幸い、街の外と違って建物があるので守る範囲は狭められる。だが小さいのは幾らでも止められるが大きいのは無理だ。アレをどうするかが問題だ。

「カクタス!忙しいところすまん!来てくれ!」

 俺は大声でカクタスを呼んだ。

「なんじゃ!まだ老骨に何かやらせるのか?」

「デカい奴の額付近まで飛べるか?」

「可能じゃが」

「あそこにいるアコナイトと喋れるか試してくれ。今はとにかく避難の時間が欲しい」

「それくらいならいいじゃろ」

 カクタスは空を飛びアンデットの額に向かった。それでもスケルトンはせっせと人を運んだり、アンデットの足止めをしてくれている。器用だな。

 俺は俺で迫り来る小さなアンデットをハンマーでボカスカ叩いた。やはり本職じゃないのでメリアと比べると全く役には立っていないが。

「アコナイト!聞こえるか!ワシじゃ!カクタスじゃ!」

 カクタスが上空でアコナイトに語りかけている。

「カクタスだと……?また私の……邪魔をす……るのか……」

 会話が出来る、意識があるのか?

「今すぐ止まれ!聖都を壊す気か!」

「法王の座は……誰にも……渡さん……!渡さん……渡さん……渡さん……」

 正気ではないな、会話になってない。

 アコナイトはその巨大な腕を振りカクタスを叩き落とそうとしている。カクタスは距離を取り、空を切った腕は周りの建物を瓦礫の山にしていく。

 確かに足止めは出来ているが破片がこっちまで飛んでくる。危なっかしいたらない。

「アコナイト!女神様の声を聞け!」

「黙れ……あの街もろとも……殺してやった……のに……まだ……邪魔をするのか……」

 あの街ってアナスタシアの街か?それも殺してやった。

「メリア、アナスタシアの街って確かアンデットの大群によって滅ぼされたんだよな?」

「ああ、そうだ。街を襲ったアンデットとはまさか……」

 最悪だ。まさかここまで教会が腐っているとは。メリアも驚愕の表情をしている。俺だって今自分がどんな顔しているか分からない。

 教会の影響力を保つ為にまさか街一つ滅ぼすなんて正気の沙汰じゃない。おそらくあのアコナイトが持っていたアンデットを操る道具は昔から教会が使ってきたのだろう。民の心が教会から離れそうになればアンデットを襲わせて教会の力によって退治する。とんだマッチポンプだ。

 そんな事を考えていると周りにいるスケルトンの動きが止まったのが見えた。これはまずいんじゃないか?

 カクタスを見ると明らかに怪しげなオーラを纏っている。初めて見た時と同じだ。

「アコナイト!貴様!」

 カクタスがアコナイトに向かって吠えた。声だけでキレているのが分かる。周りのスケルトンも避難そっちのけでアコナイトに向かって行く。

「カクタス!正気に戻れ!スケルトンを戻せ!市民を助けろ!」

 俺も必死で叫ぶがカクタスには聞こえていない様だ。やばいぞ、どうする、スケルトンがいないと怪我人も市民も避難させる事が出来ない。

「カクタス司祭!!」

 グラジオラスの声が響いた。声がする方を見るとリリーがグラジオラスの首だけ持って空を飛んでいる。

「グラジオラス様!」

 メリアもグラジオラスの生還に喜んでいる。

「カクタス司祭!しっかりして下さい!」

 グラジオラスがカクタスに呼び掛けるが全く反応しない。

「リリー殿、私でカクタス司祭を殴って下さい」

「え?いいのですか?」

「とにかく急いで!」

「はっはい!」

 リリーはカクタスに近付くと、グラジオラスの髪を掴んで振り回してカクタスを殴りつけた。それもかなり強めに。

「ぐおぉ!」

「カクタス司祭!スケルトンを動かして下さい!怒りに呑まれていけません!」

 グラジオラスの説得と暴力にカクタスは正気を取り戻した。

「あ、あ……すまん、ワシとした事が……」

 スケルトンは止まり、また怪我人の避難を始めた。これで俺達も避難できる。

「ウンスイ様、お待たせしました」

 よかった。いいタイミングでリリーが来てくれた。

「リリーありがとう。グラジオラスもカクタスを正気に戻してくれて助かった。」

「いや、戦力にならず申し訳ない。私の体は岩の下敷きになり動かせない」

「そうだったのか、仕方ない。そっちは後で何とかしよう。今はとにかく大聖堂まで避難するぞ」

「策はあるのか?いくら大聖堂でもあの大きさのアンデットは流石に弱体化しないぞ」

「ある」

 俺は断言した。メリアもグラジオラスもリリーも驚いている。

「本当なのかウンスイ!」

「ああ、だけど覚悟を決めろよ、メリア」

「奴を倒す為だ。覚悟はとっくに出来ている」

「言ったな?」

 俺はニヤリと笑った。その笑いは仕事で使う微笑みではない、邪悪なものだ。

 俺は移動しながら作戦を伝えた。皆の反応は思った通り絶句である。

「どうだ?グラジオラス、これなら倒せそうか?」

「確かに神聖魔法の波状攻撃が効かないのであれば、それしか方法は無いが……」

 グラジオラスは歯切れ悪く答えた直後、メリアが怒りながら口を挟んできた。

「いい訳ないだろ!」

「そんなに怒るならメリアには他の策があるのか?」

「そ、それは……」

「今は奴を倒す事を考えろ。後の事は生き残ってからだ」

 俺の発言に誰も反論出来ない。反論するなら対案を持って来いよな。

 カクタスも足止めしてくれているが、あのままじゃカクタスもいつかやられてしまう。

「カクタス!少しづつでいい大聖堂に誘き寄せてくれ!」

 俺は大声でカクタスを呼んだ。カクタスはアコナイトの攻撃を避けながらこちらに来た。

「よいのか?何か策があるのか?」

 俺は大聖堂がある方を見た。大聖堂の前にはそ巨体な女神像が建てられている。

「ああ、あの巨大な女神像を倒して奴を下敷きにする」

 

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