ケダモノ
喰い荒らされた情緒は骨と肉とただの塊にぶら下がっている。カラカラと音を立てる思考に置いてけぼりにされた。どこにも私が見つからない。
左手に不良品を引っ掛けて、右手に消耗品を握る。ホームの真ん中で突っ立ったまま快速列車の風を嗅いだ。
嗜好品未満の蜜に溺れてどこにも行けなくなってしまったらしい。何度舐めても満たされない中毒的な薄っぺらい味。
必需品にはなれないで、味見されては吐き出されるだけの言葉。
誰にも飲み込まれない感情。
認識できない血の流れ。
ケダモノよ、朽ちていけ。
鼓膜に響く心臓が僕の音楽だ。
曇天に阻まれる満月が、片手よりも大きく迫る。すぐそこに。
耳の腐ったお前らに俺の遠吠えが届くと思うな。
スプーンで抉った記憶の欠片は味気なく。
空っぽの胃の中を埋める作業として。
ささくれだらけの爪先で刻んだ手紙。刺さって抜けない棘も同じ。
千切れた手首はふやけた紙パックみたいだった。
丈夫になったろと、穿った真相をスカートに隠した。
焼却炉で待ち合わせよう。僕らが出逢う前の全てを粉々にしよう。
夕暮れの合図、秒針の声の音に合わせて、飛んでいこう。埃だらけの窓際からおさらばだ。
小説未満の物語 藍錆 @hakoniwa_oboroduki
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