第9話(六)

 ───どうしたもんか。


 放課後。

 図書室横の準備室で間宮の向かいに座りながら、こっそり思案する。

 二人きりで上機嫌な間宮に、しょうがないなと思ったが、自身でも満ち足りている。

 そんな中、

 ───自分でもどうしたいのか自問する。


 このまま間宮と一緒にいるのは楽しい。


 ずっと一緒にいたい。

 将来ずっと好きでいて欲しいし、ずっとそばにいて欲しい。

 好きでいてもらえる自覚もある。

 ───将来の話をするのは固い、と佐々木に言われたが、するだろとも思ってしまう。

(だから俺が……間宮とずっと一緒にいたいんだ)

 イチャイチャしろ、とも言われたが、

(してるし)

 と、文句つけるな、とも反発してしまう。

 幸せなのだ、とも思う。


 なのに、間宮が不安そうなのはなぜだろう───。


 俺は向かいに座る間宮を見た。

 間宮も俺を見返して、穏やかに笑う。

 そっと長テーブルの上の俺の手を握った。

(こういうのも嬉しい───)

 俺も間宮の手を握り返した。

「……真純」

 間宮が静かに声をかけた。

「うん?」

 俺も声を出すと、間宮は少しためらったあと、真っ直ぐ俺を見てつぶやいた。


「俺のお嫁さんになって」


「………………………」

 俺も間宮を真っ直ぐ見た。

 そして言った。


「寝言は寝て言え」

「な、なっなんか言い方冷たいんだけど!」

 慌てる間宮に俺は冷静になった。

「俺ら、一般の男女のような展開にならないだろ? 俺に家庭に入って欲しいんか? まだ高校生だし、高校出ても、大学行くし就職もするぞ俺」

「就職なんてとんでもないよ! 絶対就職先の上司や取引先に真純迫られるよ! 拒否出来ないのをいいことに、あーんなことやこんなことされちゃうよ! 真純っ」

「あーんなことやこんなことってなんだ……? なんないよ。そんなこと。お前の頭の中どうなってんだよ?」

 俺は呆れてツッコんだ。

 ときどき間宮の思考が突飛になるのはなんなんだろう───?

「とにかく俺の専業主夫になって」

 間宮は譲らない。

 俺も譲れなくなった。

「俺、家事なんか出来ないぞ。家にずっといることも出来ないぞ」

「家事は俺がやる。真純にはずっと家にいて欲しい」

「だから何もしないでいるなんて出来ないって。誰にも手なんか出されないから、お前いい加減俺のこと信用しろよ」

「真純もいい加減周りに狙われてること自覚してよね。俺がいつもどんなに心配してるか考えてよ」

「なんだよ、それ。意味わかんないよ」

「わかんないなら、余計真純のこと社会に出すこと出来ません」

「はぁあっ?」

 なんか切れそうなんだけど!

「お前そういうの、束縛だぞ? いい加減にしろよっ」

「束縛だよ! だって真純俺のだもん!」

「誰のもんでもないよ。なんなんだよお前はっ」

「……………」

 急に間宮が泣きそうになった。

「……な、んだよ。泣くなよ」

 俺は慌てた。

 間宮はうつむいて言葉を続ける。

「……俺のだもん」

「あぁ……もう……」

 俺は困ってしまって間宮の手をぎゅっと握った。

 ……嬉しくないワケじゃない。

「わかったよ……俺、間宮のもんだよ」

 しょうがなく言ったが───、


 それも悪くないけど……。


 けどなぁ……。



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