第9話(七)

 ───学校での休み時間。

 教材を借りにきた間宮が(たぶん俺に会いにくる名目なんだろうなと思う)そっと俺の髪に手を伸ばす。

「人前」

 だからやめて。

 と間宮の手を払った。

「なんで抵抗するの?」

「お前なんなんだよ……これまで準備室か家でしか……こういうことしなかっただろ?」

 教室にいる他のクラスメートを気にしながら小声で言ってから───ハッとした。

(佐々木にイチャイチャしろと言われたが、人前でってこと?)

 えぇーと思う。

 それで間宮の不安が減るのはいいけど、人前ではやだなと思う。

 ───だから、

「人前では恥ずかしいから嫌だ」

 小声で意思を主張する。

「……………」

 間宮が複雑そうに目を細めた。

「ごめん……」

 間宮がそう言って、借りにきた教材を置いて教室を出ていった。

「……」

 どうしたの……?

 なんなの?

 俺はどうしたらいいかと思いながら、間宮の背中を見送った───。


 * * *


「お前が誰かにとられそうで不安なんだって」

 放課後、迎えに来ない間宮に会いにA組に行くと佐々木が出迎えて俺にそう言った。

 たぶん間宮が佐々木に相談したのだろう。

 だが唐突にそう言うのは、どうなんだろう。

「お前は間宮の代弁者か」

 なんか佐々木には素直に相談する間宮にモヤモヤして思わず憎まれ口をたたく。

 佐々木は困ったように苦笑して、

「お前にそう言えって言われたわけじゃないぞ。ただなんかぐるぐる思考がから回っていて、間宮がかわいそうだったからな。ちなみに間宮は先に準備室行くってさ」

「そうかよ……」

 なんか脱力してしまう。

「なに間宮はから回ってるんだろう」

 ぽつりとつぶやくと、佐々木は少し考えてから、

「自分に自信がないんだよ、間宮は」

 と言った。

 は?

「なにそれ?」

「自分がダメで周りの人間にはかなわないって間宮は思い込んでるのよ。容姿もいいし、いいやつなのに話してみるとやたら後ろ向きで。お前とうまくいってからもいつお前にダメ出しされるか怯えてるんだよ」

「……な、んだよ。それ」

 そんなことないのに。

「それって俺のこと信用してない気がするんだけど」

「だな。お前も間宮にぞっこんだし」

 ニヤリと佐々木が笑う。

「うるさいな」

 顔が熱くなりながら、文句をつける。

「……でもどうしたらいい? 俺この間社会に出るのもダメだ的なこと言われたんだけど」

「プロポーズな」

「……あれプロポーズだったのか?」

 確かにお嫁さんになってとは言われたが……。

「わかってなかったんか……? いいんだよ。いいよ、って言っておけば。でもまだ学生だしやりたいこともあるんだよね、とちょっと付け加えとけばそれで間宮も納得するんだし。って将来の話してるんじゃなかったのか?」

「いや、だって結婚とか出来ないだろ法律上。普通に一緒に暮らす気でいただけで……」

「だからお前固いんだよ。間宮はただイチャイチャしたいだけなんだし」

「そうなの?」

 俺は首を傾げた。

「そうなの。だから普通にイチャイチャしろよ」

 うーん、と俺は思う。

「恋愛初心者か、お前は」

 佐々木は遠慮なくツッコむ。

 ムッと俺はした。

「悪かったな」

「え、そうなの?」

 佐々木がびっくりしている。


 うるさいなぁっ!



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