第8話(三)

「なんか……お前とまた劇やりそう……」

 放課後───、

 図書室の準備室で席の向かいに座る間宮に、俺は呆然とつぶやいた。

 やりたくはない。絶対に。

 でも佐々木が外堀を埋めていく感じがして、逃れられない気がしてきた。

「やだなあ……ベッドシーンあるとか佐々木言うし……」

 机にうなだれてると、席から間宮が立つ気配がした。

 顔を上げようとしたら、間宮が後ろから肩をつかまれて首筋に顔を寄せてきた。

「な……んだよ」

 動揺したのを悟られないように、不機嫌そうに吐き捨てた。

「とりあえずさ」

 楽しげな声音で間宮が耳元でささやいた。

「練習しようか」

 振り向くと二ッと笑う間宮と目が合う。

「練習ってなんだよ。お前ただ学校でしたいだけだろ」

 とがめるように言ったが、間宮は気にした様子も見せず、軽々と俺の座った椅子の向きを自分の方に向けた。椅子のきしんだ音が耳に残る。

「おいっ」

 文句を言おうとすると、鼻歌交じりにシャツのボタンを外そうと間宮が手を伸ばす。

「だから! やめろよっお前は!」

「だから。練習」

 間宮の手を押さえてると、あっさり外されて手首を逆につかまれる。間宮は上機嫌だ。

「人前でいちゃいちゃするの、楽しみだな」

「俺はやだよ! 何考えてんだよ! いい加減にしろよっ! それに、が、学校は嫌だって言ってるだろ!」

 ぎゃあ、となる俺に間宮は満足げに口端をつり上げて、

「まあまあ」

 となだめに入る。

 手首を押さえたまま間宮が俺の首筋に唇を寄せた。

 後が付くように吸い付いてきた。

「……ぁ……っ、」

 変な感覚がせり上がってくる。

 べろりと吸い付いた場所を間宮は今度は舐め上げた。

「あ……っ、」

 力が抜ける。駄目だと思いながら、身体が期待する。

「間宮……っ、」

 手首をつかまれていたが、身動ぎする。下肢が疼き出す。

「────────」

 しばらく間宮の動きが止まった。

「……間宮……?」

 眉を寄せながら間宮を見ると、

「やっぱりあれだね」

 と、間宮は視線を逸らした。

「佐々木に劇止めるって言う」

 ポツリと間宮は言う。

「え……?」

 聞き返すと、

「こんな可愛い真純、大勢に見せたくない」

 真顔で言う間宮はどうなんだと思う。

「………………お前ばかだろ」

 いくぶんあきれて言うと、

「真純にはばかなんだよ」

 間宮はにんまり笑う。前にも言われた気がした。灯された熱をごまかそうと、視線を動かす俺に、

「今日さ」

 間宮は話を変えるように続けた。

「家、行っていい?」

「………………」

 何言ってるんだ、と少し睨んでから、

(どっちにしろ)

 と思う。

 学校よりはましだ。

 ───少し黙ってから、

「いいよ」

 と、俺は言っていた───。

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