第8話(四)

「間宮が劇やだって言ってきた」

 佐々木が次の日の朝言ってきた。

「─────────。そうか」

 俺は席についた状態で佐々木を見上げてうなずいた。

「何言ったんだよ」

「間宮がやっぱり劇止めとこうって言い出したんだよ」

「なんで?」

「なんでって……」

 聞かれて俺は思い出して赤くなった。


 ───こんな可愛い真純、大勢に見せたくない。


 昨日言われた事を思い出す。

 なんだそりゃ、と思ったが、なんか恥ずかしくもあり、嬉しくもあり、と忙しない気分になる。

「昨日間宮お前ん家泊まっただろ? 何言い含めたんだよ?」

「言い含めてなんかない」

 昨日の夜のことも思い出して、さらに赤くなった。同時にあらぬ疑いをかける佐々木を睨んでみる。

「まぁ、いいけど」

 佐々木は納得したのかしないのかわからないけど、そう言って続ける。

「劇が駄目ならメイドカフェだな」

「なんで?」

 率直に聞いてみる。

 男子校でか、とも思う。

「女装させるしか選択肢はないのか?」

「お前の女装ウケがいいんだ。いろいろと」

「間宮もすんの?」

「うん」

 うなずく佐々木に怪訝の目を向ける。

「……似合うかなー」

 間宮のデカイ図体でどうだろ? と眉をひそめてると、

「じゃあ、場所とか衣装とかメニューとか考えるから後でな」

「後でな言うな」

 こっちの意思はまったくの無視で、佐々木は言うだけ言って教室を出て行った。

(なんなんだ毎回)

 つーか二組合同は変わらないんかい。

 いろいろツッ込みたかったが、なんか疲れてきて考えるのを止めた───。


 * * *


 ───衣装合わせと言われて、後日。

 色は地味な感じだったが女モノの服を佐々木から渡された。

「……ほんとにメイドカフェやんの?」

 半分冗談だと思ってたが、本気だったんだと再確認した。

「やるよ。サイズ確認したいから試着して」

「……えー」

「劇よりいいだろ」

「………………いいけど」

 文句を言おうとしたが、止めた。

 劇よりかはいいかな、と思ってしまう。

 その場で制服の上から着ると、クラスの視線を感じたが、無視して佐々木のチェックを受ける。

「少しゆるいか……まぁ少し詰めるか」

 あーはいはい、と流してフリルのついた服を脱いで佐々木に渡した。

「真純! 見て見て!」

 弾んだ声で間宮がB組に入ってきた。

 目を向けて───、ぽかんと俺は口を開けた。

 なんか……ウェイター風のぴっしりとした格好だった───。

「なんで間宮男モノなんだよ?」

 俺と同じメイド服じゃないんかい、と佐々木に間宮を指差しながら聞くと、

「間宮は女ウケがいいから」

 しれっと佐々木が答える。

「俺似合うかな?」

 機嫌よく間宮が言ってくる。

「………………………」

 長身の間宮に、とても似合っていた。

「なんの嫌がらせだよ」

 佐々木に言うと、

「なんで嫌がらせだと思うんだよ」

 佐々木はニヤリとする。俺は黙った───。

 なんでって……。

 女の子に言い寄られるであろう間宮を思うと、なんだかモヤモヤした。

「と、言うわけで、文化祭楽しみだな」

 佐々木は上機嫌だ。

 ……………。

「そんなに劇やんないの気に入らないんかい」

 ジト目で佐々木を睨むと、佐々木はヒラヒラ手を振った。

「そう言うんじゃないよ」

「ほー」

 疑いをかける俺に佐々木は笑う。間宮はきょとんとして俺を見た。

 くそ。

(ぜんっぜん楽しみじゃない!)

 イラっとしながら、俺は押し黙った。




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