第8話(二)

 なにやら学級委員の矢野と話をしている佐々木を見つけて、嫌な予感がした。

 ───次の日。

 朝のホームルーム前、二人が話しているのを席から視界に見つけて俺は眉をひそめる。

 しばらく話した後、佐々木が「また」と言うように片手を上げた。

 教室を出て行こうとする際、佐々木が俺を目にとめる。

 ───ニヤリ、と佐々木は笑った。

「……………………」

 俺はさらに眉をひそめる。

 佐々木が出て行った後、矢野が俺のところに来た。

「高橋ー、文化祭での劇の題材まだ決まってないけど、A組と共同でやることが決まったから」

「何勝手に決めてんだよ!」

 怒鳴る俺に矢野が戸惑ったように身を引いてから、

「だって佐々木が高橋には話ついてるって」

「ついてるわけないだろうがっ、佐々木が勝手に言ってるだけだよっ、もう……っ、矢野からも断ってよ!」

「無理言うなよ。面白そうだし、いいじゃないか」

「良くない!」

 ぎゃあっとなっていると、

「なに騒いでるんだ?」

 堀が朝練が終わったであろう時間帯に教室に入って来た。

「堀からも言ってよ! このままだとまた佐々木の思い通りに俺、また劇させられそうなんだよ!」

「───劇? またやるのか?」

「やらない話をしてるんだよ!」

 さらにわめく俺に、堀はあまり表情を変えずに、

「どうせ佐々木の思うつぼになるんじゃないか?」

 とバッサリ言った。

「なんないよ!」

「朝から怒鳴ってるなよ。あ、先生来たぞ」

 あー! もうもうっ!

 モヤモヤしながら、学校生活が始まった───。


 * * *


「ベッドシーンは入れたいな」

 昼休みに佐々木が言ってきて、俺は絶句する───。

「前から思ってたけど、お前俺のこと嫌いだろ?」

 お弁当を机に広げようとした手が止まる。

「そもそも劇になんか出ないし、べ、ベッドシーンなんか絶対やんないぞ」

 念を押すつもりで言ったが、佐々木はさらりと流した。

「なにやるかまだ考えてないけど、オリジナルで俺話書くわ」

「書くなよ。お前なんだかんだ忙しいだろうが。それに絶対劇なんか出ないぞ」

 さらに念を押したが、

「いいじゃないか。需要があるんだし」

 佐々木は強気だ。

「もうっいい加減にしろよ! やらないったらやらないからな!」

「何が嫌なんだよ。いつも間宮とやってることだろ?」

「い、いつもとか言うな」

 カッと顔が熱くなったが、佐々木はニヤリとする。

「とりあえず俺に任せてよ」

「……お前本当俺のこと嫌いだろ?」

 さらに佐々木は笑って、「じゃあまた」と言って去って行く。

 ───ああ、もう……。

 俺は絶望しながら、なんとなく諦めモードになっていった───。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る