第8話(一)

「文化祭だ」

 急に佐々木がうちのクラスに来て言い放った。

「………………」

 朝のホームルーム前、すでに早くに間宮と学校に来ているので、まだ教室にも人は少ない。

 俺は席につきながら、佐々木を見上げて、こちらも毅然と言い放った。

「やらないぞ」

「まだ何も言ってない」

 なんか面白そうに返されて、俺はムッとする。

「どうせあれだろ? また劇かなんかさせる気だろ?」

「いいじゃないか。どうせ春にやったんだから。一度も二度も変わんないだろ?」

 俺はさらにムッとする。

 春に女装させられて、劇をやらされたことを思い出したからだ。

「変わるよ。俺はなんもやらないぞ」

 抵抗を見せたが、さらに佐々木は面白そうに笑った。

「なんでだ? 春のものすごく好評だったんだぞ」

「知るか。とにかくそっちのクラスはそっちのクラスでやれよ。こっちを巻き込むな」

「じゃあ、矢野に話つけるか」

「聞けよ、話」

 B組の学級委員の矢野の名前を出す佐々木に俺は目くじらを立てる。

「絶対劇は出ないぞ、俺は」

 念を押す俺に、まあまあと佐々木は手をヒラヒラさせた。

「また共同しようぜ。じゃあまた後でな」

「だから話聞けよ、お前はっ」

 本当に一方的に話していって佐々木は教室を出て行った。

「おいっ」

 まったく、もう!


 * * *


「佐々木は本気だよ」

 落語同好会で使っている図書室横の準備室で放課後───、間宮が諭すように言ってくる。

「なに諦めてるんだよ。このままだとまた劇させられるぞ」

 このままでたまるか、と諦めモードの間宮を震い立たせようと言ったが、間宮は「うーん」と困ったように笑って、

「俺が出ないと真純の相手役他に探すって佐々木に言われて」

「お前それ脅されてるのと同じだろうが」

 佐々木もなに間宮に言ってるんだ。

 あいつはーと歯痒く思っていると、

「それに」

 間宮がのんびり続ける。

「真純といちゃいちゃするの見せびらかせるの嬉しいんだ」

「………………………なんだそれは」

 こいつもなに言い出すんだ───、と止まってしまう……。

(ああ、もう)

「とにかく俺はもうやらないからな。やっても今回は裏方やる」

 断固意思は曲げん! と宣言すると、間宮は意味ありげに視線を逸らした。

「……真純、こういうこと佐々木に勝てないんじゃないかな……」

「あぁん?」

「……いや、なんでも」

 凄む俺に間宮がため息を吐いた。

「とにかくまたあんな恥さらしな真似はしないからな」

 俺は宣言する。

 絶対負けるものか!

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