小話

「高橋、果物食べる?」

 休み時間、教室に藤井先輩が来て謎の提案をした。

「…………どういうことですか?」

 次の授業の準備をしようとする手が止まって、席の横に立つ藤井先輩を俺は見上げた。

 クラス中の視線がこっちを向いてる気がしたが、それにもあまり気がまわらない。

「先輩! 真純にちょっかいかけるのやめて下さい!」

 隣のクラスから間宮が口を出してくる。

(……余計ややこしくなってきた……)

 なんとなく疲れてくると、佐々木が後からやってきた。

 俺はなんとかして、と目配せした。

 佐々木が了解の合図のように右手を上げた。

「うちお寺で檀家さんからいろいろもらうんだよ。それのおすそわけ」

 藤井先輩が言いながら、おいしそうな果物の入ったパックを俺の机の上に置いた。

「バナナ食べて。イチゴもあるよ」

 ご丁寧にバナナの皮を剥いて俺に渡してくる。

「……はぁ」

 そんなにお腹すいてないんだけど、と思いながら悪いと思い、口にした。

「─────────」

 なんかクラス中の視線がさらに強くこっちに向いた。

「?」

 なぜか間宮も固まって、俺を凝視する。

 佐々木は何か言いかけて、やめた。

「???」

 バナナはおいしかった。

「イチゴもどうぞ。練乳あるよ」

 藤井先輩は今度はイチゴを渡してきて、練乳をかけてくる。たっぷり過ぎて手に流れる。

 しょうがないので、舐めとった。

「──────────────」

 さらにクラス中が固まった気がした。

「?????」

 甘いと、お茶が欲しいなと思っていると、

「いやー! 楽しいね!」

 藤井先輩は俺を見ながら、ご機嫌だ。

「????????」

「楽しいのは、藤井先輩だけですよ」

 佐々木がポツリとつぶやく。

「……ごめん……真純」

 間宮が急に謝る。

「どうして?」

 不思議がる俺に、間宮がまた「ごめん……」と謝る。

(なによ?)

 なにがおもしろいのか、それからたまに藤井先輩が差し入れを持って俺のところに来るようになった───。

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