第7話(四)
「デパートの上でなんか食ってこうよ」
藤井先輩がゲーセンでひとしきり満足したのか、そう言った。
「もう帰ります」
と言う俺に、藤井先輩は「まあまあ」と俺の肩を押しながら、
「奢るから」
とおっしゃる。
「真純のは俺が出します」
急に間宮が口を出す。
何張り合ってるんだ───。
なんか力が抜ける展開に、俺は少し考えてから言った。
「じゃあ間宮のは俺が出します」
「なんなんだ、お前ら」
佐々木がやんわり突っ込む。
「とにかくここデパートだから入ろうよ」
藤井先輩が俺の手を引いてデパートの入り口に入って行く。
「ちょっ……!」
自分の意見通しまくるタイプだな!
「あの! 真純の手離してください」
間宮が横で訴えてる。
(言うことそれか)
違うだろ、と思った横目に───、
あるポスターが目に入る。
宝石の店舗の前。
色とりどりの花に埋もれて花のモチーフのイヤリングとネックレスを身に付けた一人の女の人のアップの写真───、
「……!」
ギョッとした。
(なんでこんなところにっ)
───こないだ天音さんに撮られた自分の写真だった……。
固まる俺の視線を追ってそれを見た間宮が同じように固まる。
佐々木も目を向けて、「あ」と口を開く。
動きを止めた俺らに藤井先輩が「どうしたの?」と同じくポスターを見ようとしたのを佐々木がごまかすように声をあげる。
「先輩! ここじゃなくて前の定食屋にしましょうっ」
「そう? ここの洋食量あってうまいし、デザートもうまいんだよ」
「そうなんですか? じゃあ早く食べたいです俺」
佐々木が強引に藤井先輩の腕を引いた。
「あ」
藤井先輩が宝石売り場のポスターに目を止めた。
はっと俺らが息を止めた。
「このポスター……」
「……………」
「……………」
「……………」
「すごい美人だねー!」
がくりとしそうになったのを押し留めた。
「そうっすか……?」
半眼で聞き返す俺に、藤井先輩は、
「美人だよー会ってみたいなあ!」
「……………」
「……………」
「……………」
半笑いになって俺らは藤井先輩を見つめる。
「あれ……でも、どこかで会ったような……」
じっとポスターを見ながらつぶやく藤井先輩に佐々木が「そんなことより」と言って、
「食べるなら早く食べちゃいましょう。夕飯食べる都合もあるし」
と続ける。
「そうだねーじゃあ行こうか」
エレベーターに歩いて行く藤井先輩の背中を見て、佐々木を振り返った。
ありがとうと無言で伝える。
佐々木は無言でうなずいた。
間宮はスマホに何か打ち込んでいる。───天音さんに連絡取っているのだろう。
(……なんなんだ)
なんか疲れた気分で、そっと息を吐いた───。
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