第7話(三)
「はじめて来た」
バスを降りて、ゲーセンに着いてそうつぶやいたら「え?」と言う反応が返ってきた。
「真面目に生きてきたんだな」
佐々木が言ってくる。
「なにするの?」
聞いたら佐々木が呆れたように、
「お前それラーメン屋に来てラーメン頼まないのと同じだぞ」
「わかんないから俺見てる」
「じゃあ俺の腕前見ててよ」
藤井先輩が先頭に立って、早速なにやらぬいぐるみの入った機材の前に来てお金を入れた。
しばらく操作して、すぐさまぬいぐるみがつり上げられる。
「うまいっすねー」
佐々木が言うのに、うまいんだと思いながら、見ていた。
藤井先輩は捕ったぬいぐるみを俺に渡す。
「? なんすか?」
「やるよ」
「え? いや、」
押し付けられた良くわからない猫のキャラクターのもふもふの物体に戸惑っていると、
「八つ当たりしたおわび」
藤井先輩の言葉に、八つ当たりの自覚あったんかい、と突っ込みたかったが、押し黙ってから、
「……はぁ」
と、相づちを入れて間宮を見た。
おわびするなら間宮にもしろよ、と思ったが───当の本人は俺にスマホを向けて無断で写真を撮っていた。
「……………なにしてんだ? 間宮」
本気で疑問に思って聞くと、間宮は直に俺を見て言った。
「いや、真純ってぬいぐるみ似合うよね」
「……………ぬいぐるみに似合う似合わないあるんか?」
なんなんだろうと思いながら聞いた。
「高橋もやってみる?」
藤井先輩がこっちの会話をスルーしてお金を入れて俺に場所を譲った。
「え? いいっすよ」
戸惑う俺をよそに「いいからいいから」と言うので、藤井先輩の指導を受けながらやったが、うまく行かなかった。
「俺だめですよ」
言って、藤井先輩に交換しようとしたが、その時横から声がかかる。
「捕りやすくしましょうか?」
店員さんだった。
俺を見ながら、店員さんがガラス戸を開けてぬいぐるみを移動している。
「これでどうぞ」
じっと俺を見て言うので、
「ありがとうございます」と頭を下げた。
そのまま店員さんは去って行ったが、背後で藤井先輩と佐々木が「さすが」と言うのが聞こえた。
「さすがって何?」
わからないと振り返る俺に二人は苦笑する。
間宮は急に手を握ってきた。
「ちょっ! なんだよ!」
外野がいるのになにしてんだ? と手を振りほどこうとしたが、間宮は真顔で、
「やっぱ、外に真純連れ出すのやめる」
「なんだよそれ」
いいから手離せと思ったが、間宮は離さなかった。
「まあ、俺やろうかな」
藤井先輩が再びこっちのやり取りをスルーして操作を始めた。
「藤井先輩、彼女どうしたんですか?」
佐々木が急に言い出した。
「いるよー」
操作中に藤井先輩がうなずいた。
(いるんかい)
意味ありげに俺は藤井先輩を見た。
「ただ連絡取ってないけど」
「へー」
佐々木が相づちを打つ。
「佐々木は?」
「俺はいないですね」
「欲しくないの?」
「俺はまだいいですねー」
ぬいぐるみをまた捕って、藤井先輩はまた俺に渡した。
(いや、だから)
なぜ俺に渡す?
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