第6話(八)

「けっこうあれね、真純くん。理玖の独りよがりじゃないのね」

 ニヤニヤして俺のことを見下ろしながら(身長差の都合上)天音さんが言った。

 何を意味するのか理解したが、俺は返答に困った。

(……昨日のことどこまで知ってるんだろう)

 疑問に思ったが、たぶん全部知っている気がした。

 うわあ、と一気に恥ずかしくなったが、協力してもらったこともあり、むげにはできないなと思ってしまう。

 でも話は変えたいので、

「なんで間宮のとこ来たんですか?」

 と聞いた。

「ふっふー。妬いてんの?」

 話変えたかったのに戻ってしまう。

(いたたまれない……)

 顔が熱くなってると、天音さんがひらひら手を振って、

「理玖じゃなくて、真純くんに会いたかったのよ」

「俺?」

「またモデルやって欲しくて」

「……そればっかですねー」

 なんだそれ、と思ったが、天音さんは当然とばかりに笑った。

「ほんと前回の撮らせてもらった写真評判良かったのよ。私も気に入ってるし」

「……はぁ」

 ───でも、と俺は続ける。

「……間宮のとこ泊まらなくてもいいんじゃないですか?」

「妬いてんの?」

 再び天音さんはニヤニヤした。

「……べ、別にっ、」

「何心配してんのよ。大丈夫よ、理玖相手にどうも思わないから泊まったのよ」

「どうもって……」

 それもどうよ? と思ったが、心配しすぎなんだろうか。

「でもね」

 天音さんが声をひそめた。後ろを歩いている間宮を気にしたふうだった。

「おばさんは……理玖のお母さんは私とくっ付けたがってたのよね」

「…………………は?」

 俺は絶句した。

 うわ、と思う。

「───間宮のお母さんって何考えてるんですか?」

「こっちが聞きたいわよ。聞かなかったけど」

「……………………」

「大丈夫よ、そんな不安な顔しなくても」

 天音さんが苦笑した。

「ちゃんと私も付き合ってる人いるし、理玖は年下だし、弱いし、頼りにならないし、それにホモだし」

 バッサリ天音さんが吐き捨てる。

「そんな……ボロクソ言わなくても」

 人のモノに───、と思ったが、

(安心してもいいのかな)

 なんだかホッともした。

「相変わらずおばさん何考えてるかわかんないけど───どうする? 一応理玖と付き合ってるふうを装って、真純くんとの付き合い楽にする?」

「……いえ」

 天音さんの申し出に俺は否と言う。

「そんなことしなくて大丈夫です。認められないかも知れないけど、嘘はつきたくないし、ついて欲しくないし」

 ふーん、と天音さんがニヤリとする。間宮と似た笑い方だった。

「嘘でも私と付き合うって言うの駄目なの?」

「っ、違っ……そういうわけじゃ……!」

 カッと熱くなった。

「大丈夫よ、私は理玖と真純くん応援してるから」

「っ、……はぁ」

 からかわれてるのかな、と思ったが、天音さんは味方でいいのかな、と思う自分もいて───不思議な気分だった。

「とにかく今日スタジオ小さいの押さえといたから時間いい?」

 唐突に天音さんがおっしゃった。

「は!? 今日? 今から!?」

「そうよ。じゃあ善は急げってことで」

「何が善なんだよ!」

 背中を押されるのに、ぎゃあっとなりながら、

 ───味方なのかな……?

 なんとなく認識の甘さを感じて、脱力してしまった───。

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