佐々木の場合(四)

 声をかけてきたのは間宮理玖だと名乗った。

 例によって高橋真純の信者だったが、どこがいいんだとの答えに「落語好きなところ」とのことで、顔って言わないだけ面白いと思った(そーいや休み時間に最中食べてたな、高橋。とジジくさい趣味を思い出す)。

 間宮は眼鏡を外せばなかなか端正な顔立ちで高橋の隣に並んでも遜色ない感じがした。

 高橋が繰り上げで高校に行くことを伝えて、間宮にも同じ高校になるよう促した。勉強も堀と一緒に見てやるつもりだ。


「なんでそこまでしてくれるの?」

 後でそう間宮は聞いてきた。

(なんで?)

 俺は少し考えて、

「見てみたいんだよ」

 と切り出した。

「え?」

「高橋が誰かに夢中になるの」

 不思議そうな間宮に俺は笑った。

 なんに関しても無反応な高橋が心動かされるのを見てみたい。それが間宮だったら面白いなとも思っている。


 ───間宮の家に行ったことがあるのだが、母親の対応が冷めていて(制服の俺を見て「……今さら」と小声で呟いていてカッとした。「死ぬ気で受かれ」と間宮に言ったら「プレッシャーかけないで……」と泣き言を言われた)余計応援したくなった。

 間宮の部屋には最初に会ったとき送った高橋の写真が飾られていた。

 そんなに好きなんかと突っ込みたかったが、

「写真、高橋の撮ってやろうか?」

 そう言うと、間宮は嬉しそうに「うん!」とうなずいた。

 ───後日、教室で高橋にスマホを向けていると、

「あれ、佐々木も高橋に興味あるんじゃん」

 吉川が目敏く見つけ言ってくる。

「俺じゃねーよ」

 一応言ったが、吉川は「いーよいーよ」と言って聞いてくれない。他でも撮ってると、隣のクラスのやつやあまつさえ教師も送ってくれと言ってきて、あきれた。いろいろもらったりして、いいんだか悪いんだか、と複雑な気分になったが、間宮には喜んでもらえて良かったと思った。


 * * *


 ───春。間宮が無事神城学園高等部に合格した。

 それに合わせて俺は髪を明るく染めた。眼鏡もコンタクトレンズに変えた。───なんだか高橋と接していて真面目にやってるのが馬鹿らしくなったのだ。教師は何か言いたげだったが、学年トップだったせいか何も言わなかった。まあ、高橋がまたトップになったら髪の色は戻そうと思った。


 なんだかんだあって(いろいろ妨害したり手を回したりもしたが)、間宮と高橋はうまくいった。ほんとにくっつくなんて……とも思ったが、良かった、とほっとした。

 高橋のことをからかってやろうと俺はスマホ片手に廊下に出た。高橋と間宮が人気のない春の木漏れ日が漏れる裏庭にいるのが見てとれた。

 何か穏やかに話している。俺はスマホのズーム機能を使って覗いた。

 しばらくして、間宮が何か言い、高橋に背を向けた。

「───────」

 俺は息を止めた。

 高橋がカッと赤くなった顔を隠すように腕を上げている。続いて動揺したように視線を泳がせた。

(いい顔するようになったじゃないの)

───可愛いんじゃないの? そして、きれいだった。

 今までのすました顔よりずっといい。

 良かった、と思うのはなんでだろう。

 俺はそっとシャッターを押した。

(後で間宮に見せてやろう)

 ニッと俺は笑った。


 ───後日。

 間宮からやることやったとの報告を受け、からかってやろうとB組に行った。

 ざわりと無言のざわめきが高橋に向けられていた。

 ───色気が垂れ流しだった。

 ただでさえ、きれいな顔立ちで目立ってたのに、ただならぬ空気感が高橋にまとっていた。

(……どうよこれ)

「……………」

 俺は何も言わず教室に戻った。

 教室には中学のときよりかなり背が伸びた間宮が待っていた。

「ありがとう。佐々木のおかげだよね」

 間宮が嬉しそうに笑って言ってくる。

 でもいっか、と思った。

 間宮が幸せそうなので───。

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