第5話(七)
「なんで助け船出さなかったんだよ」
着替えを済ませ、化粧も落として間宮が買ってきたお茶を飲みながら、つい恨み言を言ってしまう。
「だって」
間宮はスタジオを撤退しようと一人片付けにいそしんでいる浜田さんを見て、
「昔から体力的にも口にも勝てたことなくて……一度天音さんに口答えしたら、ぼこぼこにされたことがあって……それ以来逆らえたことがなくて……」
しぼんでいくように声が小さくなる間宮に俺は同情してしまう。
「……あー」
「だからごめん真純」
「お前あれか。男に走った原因そのイチが浜田さんか」
「男に走ったって……その言われ方はちょっと……。真純だから好きになったんだよ」
さらりとそういうこと言うなよ、と思ったが、とりあえず黙っておいた。
「ほら、そこイチャついてないで。理玖この荷物駐車場まで運んで。それから真純くん」
てきぱき浜田さんは言っていたが、おもむろに封筒を俺に差し出す。
「? 何?」
「バイト代。お昼代ぐらいだけど」
「いいっすよ。別に」
「またやって欲しいから受け取って」
……もうやりたくないんだけど。
そう思ったが、押し切られて受け取ってしまった。
「おばさんには、旅行の相手はいつも泊まりに行ってる高橋くんだったって言っておくから」
じゃあねーと続けて、浜田さんは帰って行った。
(……急だな)
慌ただしい。
どっと疲れて、俺は結構な荷物を運んだ間宮を見た。
「……………」
間宮も疲れた感丸出しで浜田さんが去って行った道を見ていた。
「……俺らも帰る?」
そう促すと、
「そうだね……電車お昼前の乗れそうだし……なんか本当にごめん、真純」
「いいよ」
振り回されたのをお互い共有した感じがして、しょうがないなあと思ってしまう。
* * *
座席に無事座れて、帰路に着こうとしていると、間宮が嬉しそうに提案してくる。
「寄りかかっていいよ」
「……またそれか。いいよ。背もたれあるし」
こっちもこっちで疲れる感じがしたが、間宮は少し寂しげに眉を下げる。
「寄りかかって寝てもらえるのずっとして欲しいひとつで……」
「ずっとして欲しいひとつって……なんだ? して欲しいリストでもあんのか?」
「…………………」
「なぜ黙る」
……なんだかもう。
しょうがないなと俺は間宮の方に寄りかかった。
目を閉じて、眠気でぼんやり身を任せそうになったが、気になったことを言ってみる。
「間宮」
「何?」
間宮が嬉しそうに頭上から問い返す。
「……もううちに泊まりにくるの、難しくなるかな」
「─────」
息をひそめる気配がした。
「間宮のお母さんこれから心配するんじゃないの?」
───それは嫌だな、とこっそり思ったことに気付かれないように言ってみた。
二人で夜を過ごすのは、なんだかんだ自分には重要になってきているのは否めない。
幸せだと思っているのは本当だ。
それが今後は難しくなるんだろうか……。
押し黙っていると、間宮は俺の手をぎゅっと握り締めた。
「二人でいられるようにするから」
小さい声だったが、力強く感じた。
「邪魔は、させないから」
どこか言い聞かせるような間宮の言葉に俺は薄目を開けた。
そっと俺も逆の手で間宮の手を握る。
「───学生なの難しいね」
俺が女の子ならもっと良かったんだろうかと思いながら、小声で俺は呟いた───。
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