第5話(八)

 本当は地元に帰ったらすぐやろうと思ってたんだけど、その日は疲れていてそのまま休んでしまった。……いろいろあったんだな、とあらためて思ってしまう。

 ───後日。

「間宮。お前ん家行っていい?」

 夏休みの中盤、携帯で俺は間宮に言った。

「……は?」

 電話口で間宮がぼんやりと聞き返した。

「……いや、だからさ。うちの親いるし。あんまり……真純に関わって欲しくなくて」

「わかってる。でも一度ちゃんとあいさつしたいんだ」

 小さく拒絶の色を見せる間宮に、俺は押し切った。

 渋る間宮に待ち合わせの場所をこじつけて、俺は出掛けた。


 * * *


「天音さんに何か言われた?」

 知ってる公園を目印にして、間宮と待ち合わせた。会うなりそう言われて俺は「そうじゃないよ」と否定する。

「やっぱりあいさつした方がいいと思ったんだよ」

 気が進まないのかまだ家に案内しない間宮を急かして押し掛けた。

 二階建ての間宮と表札のある家に来て、少し緊張した。

「お邪魔します」

 玄関口で細面の小柄な女性が出迎える。間宮とは似ていない。少し気が強そうな印象だった。その人が俺を見て動きを止める。

「はじめまして。高橋です」

 にこりと余所行きの笑顔であいさつする。

「間宮くんにはお世話になってます」

「─────」

 間宮のお母さんはしばらくじっと俺の顔をみていたが、やがてやんわりと笑顔になった。

「高橋くん。期末試験で一位だったのよね」

「あ、ハイ……」

 間宮とはそういう話してるのかな、と俺は間宮を見た。間宮は視線を外して話には加わってこない。

「これ母からです。部屋上がっていいですか?」

「あら、ありがとう。もちろん上がって。いまお茶持ってくから」

 家に上げてもらい、二階に上がる際、ぽつりと間宮のお母さんが小声で言ったのがわかった。

「……高校までだからね」

「──────」

 気が引いた。

(わかってるんじゃないか?)

 俺が間宮のなんなのかわかってる気がした。

(なぜだ?)

 間宮が言ったとは思えない。

(どうして?)

 なんかバレることしたんだろうか。

(気のせいかな)

 ───間宮の部屋に入って、

 ガクリと膝をついた。

 部屋に俺の写真が飾られていた。

「…………っ」

「どうしたの真純っ」

 バレるバレない以前の話だ。

「お前俺の写真飾んなよ」

 頭を抱えながら言うが、間宮はなんで? と目を丸くしている。

 しょうがないな……。

 ある意味楽観的と言うか───。

(高校までは何も言われないんだろうか)

 それまで利用価値があると思われてるのか。

 ───じゃあその後は?

 間宮のお母さんの思考を考えてしまう。

 それぞれ大学に行って、それぞれ言われるまま彼女作って、それぞれ生きて行くことになるよう誘導されるのだろうか。

 納得せざるを得ない日がくるのだろうか。

(……いやだ、と思った)

 そんな未来は受け入れられない。

 ぞっとするぐらいいやだった。

 間宮の隣には自分がいたかった。

 いつからこんなこと思うようになったんだろう。

「お茶ここ置いとくわね」

 間宮のお母さんが部屋のテーブルにお茶とお菓子を置いて出ていった。

「──────」

「何考えてるの?」

 間宮が言って、ドアの鍵を閉めた。

「間宮?」

「親に反対されたら、別れるつもりだった?」


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