第5話(六)
「理玖なんか飲み物買って来て」
シャッターを切りながら、浜田さんは突っ立っている間宮に声を掛けた。
「場所わかんない」
「来る途中コンビニあったでしょ」
「……はい」
少しの反抗を残し間宮が外に出て行った。
二人きりになってもポーズ変えを要求してくる浜田さんに、俺は切り出した。
「……あの、その写真ネットかなんかに流すんですか?」
「そうね」
「あの、うちの学校一応進学校で……バイト禁止ですし……いろいろまずいんですけど」
「大丈夫よ。化粧して女の子にしか見えないし」
「……………」
───まさか学校の出し物で女装したとは言えない。バレるんじゃないかなぁと遠くを見ていると、
「ごめんなさいね」
浜田さんが不意に言い出した。
「……謝るぐらいなら止めて欲しいんですけど」
「そうじゃなくて。急に理玖の母親から連絡あって、探り入れてきたのよ。それで相手の確認しろって」
「……ああ」
そのことかと思った。そしてやっぱりそうなんだとも思った。
「受験ダメだった後から、ないがしろにしてきたくせに、管理だけはしておきたいのかなと思ったけど、なんか理玖成績上げたみたいで、また執着しだしたみたいなの」
「『また』? 昔は執着してたんですか?」
「ちょっと病的にね」
「ふーん」
そうなのか、と思って───それでかと俺は浜田さんを見た。
「その話したくて、こんなことしたんですか?」
「それはそれ。前に理玖に真純くんの写真見たことあって、後々使えるなと思って」
………………………使えるってなんだ?
そもそも俺の写真見回すなよ間宮、と半眼になっていると、
「キスマーク」
突然の言葉に、ギクリと俺は浜田さんを見た。
にっこり浜田さんはして続ける。
「理玖とそういう感じなんでしょ? おばさんに……理玖の母親に黙っててあげるから、また写真撮らせてくれる? バイト代出すから」
「──────」
カッとくるものがあった。思わずぶっきらぼうに言い返していた。
「申し訳ないですけど───悪いことしてるつもりはないんですよ。言いたければ言えば」
「─────」
興味深そうに浜田さんは俺を見た。強く見返す俺に、浜田さんは嬉しそうに破顔した。
「顔に似合わず面白いのね、真純くん。大丈夫よ。言わないから。理玖も今落ち着いてるみたいだし。なんだかんだおばさんめんどくさいと思うけど、理玖のことよろしくね」
「…………………」
もしかしてこっちの本気度試されたんだろうか……。
なんだよ、と思っていると、浜田さんは嬉々としてカメラを構える。
「もっと色っぽい表情ちょうだいー。あ、こっちのブレスレット持ってくれる? ピアスも着けて欲しいな。穴あけないの?」
「だ、か、ら! うち進学校なんですよっ」
「真純くん似合うと思うのに」
話聞かないな!
そういうところ間宮に通じる感じがして、諦めの境地に入ってくる。
「俺なんかの写真じゃどうしょもないんじゃないんですか?」
「真純くん自分のことわかってないのねー」
───間宮と同じことを言う。なんだよ……。
「やっぱこっちのデザインの方がいいかな、肩もっと出したい……ってキスマークついてる。ファンデで隠すか。もう理玖のやつ」
もはや独り言のまま浜田さんは作業を続ける。
(……ああ、もう)
勝手にしてくれ。
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