第4話(二)
母親が間宮が来てから東京の父親のとこに行くって言うので、ゆったり朝を過ごし、10時頃玄関口で間宮と共に見送ることにした。
「じゃあ行ってくるけど」
あまり大きくない鞄一つで出かけようとしてる母親にもっといろいろ持ってってやればいいのに、と思いながら、「行ってらっしゃい」と声をかける。間宮も隣で「気をつけて」と続けた。
「あなたたちも気を付けてね。戸締まりちゃんとするのよ。……それと」
付け足すように釘をさす。
「ほどほどにね」
「……何がだよ」
「は、ハイ……」
恐縮する間宮をよそに俺はハヨ行けと手を振って送り出した。
「………」
「………」
静寂が流れ、間宮と顔を見合わせる。さてこれからどうしようかと言おうとした瞬間、腰に手を回された。流れるように口付けしてこようとするのを、俺は両手で阻止した。
「あの……真純さん?」
腑に落ちないという顔で見下ろす間宮に、
「ほどほどに言われたばっかだろ。それに」
戸惑いながら俺は続ける。
「……まだ夜じゃない」
「………………」
ぱちくりと間宮は瞬きした後、そっと視線を外した。───何かに耐えるように。
なんだ?
「……………そうだね。まだ朝だね」
噛みしめるように間宮は呟く。
(なによ?)
* * *
「だから勉強教えてもらいたくなかったんだよぉ……」
二階の俺の部屋で間宮が泣き言をもらすのを、俺は目くじらを立てて「はあぁ?」と声をあげた。
「教えろって言ったの、お前だろうが」
「違うんだよ……だから、イチャイチャがしたかったんだって……」
テーブル越しに間宮がうなだれる。ちょっと数式百回書き取りさせようとしたのはやりすぎだっただろうか。
「真純ぜったい教師向かないよね」
「うるさいな……だいたいイチャイチャってなんなんだよ」
「だから……ここはこうでーああでー、とか問題正解したら、キスしてくれるとかぁ」
照れながら言ってくるのに、俺は半眼になる。
「そんな『あははーうふふー』的なことを俺にさせたいんか」
「させたいって言うか……したい、です」
上目遣いで言ってくる間宮に、俺は呆れたように息を吐いた。
「まぁそれぐらいならいいけど……」
「いいのっ?」
「もっと何でも言うこときいてーみたいなことだと思ったから」
「あ、それもいいかも」
天啓を受けたように間宮が目を輝かせた。
「いや、だからそういうのはやだって話……」
「じゃあ成績上がったら俺の言うこときいてくれる?」
強気で食い付いてくるのに、俺は嫌そうに眉を寄せた。
「いや、だから」
「50位以内入ったら、いい?」
「お前この間の中間52位だったじゃないか」
何セコいこと言ってるんだ。
「じゃあ40位」
「チマチマ上げていくな」
「ええ?」
じゃあ、とまた提案していきそうだったので、俺は遮った。
「俺のこと抜かしたら考えておくよ」
「それは……」
思案げに間宮は宙を見た。だが決意を固めるように俺を覗き込む。
「じゃあそれで。約束」
「……………」
付け加える感じで、間宮はおずおずしながら提案してくる。
「俺が抜かしたら……真純がひとりエッチしてるとこ見たい……出来れば、それ、動画に撮りたい」
「………………………」
しばらく黙った後───俺は手を出した。
「間宮、スマホ貸せ」
「な、ななななんで?」
動揺する間宮に、
「お前本当に俺の写真消したんだろうな? つーか変な写真撮ってないだろうな? こんなことしたくないけど、いっぺんスマホチェックさせろ」
「チェックって、そんな」
「いまので、一気に信用なくしたのわからないのか」
「いや、その」
たぶんスマホの入っているズボンの後ろポケットを押さえながら「とにかく」と続ける。
「言うこときいてくれるの約束していい?」
「………」
じっと見返した後、俺は意を決する。
「抜かしたら、な」
早まったか? とも思ったが、密かに俺も頑張ろうとも心に決めた。
「じゃあ、さ。勉強の続き。イチャイチャモードでお願いします」
譲らない頑固さでまた話をぶり返す。
「……お前な」
「『それぐらいなら』って言った」
「………」
まためんどくさいモードきた───。
しらけるこちらを無視して、「ん」と目をつぶって間宮はキスしてアピールをしてくる。
「……なんだよ」
「頑張ったのでご褒美」
「……………」
どこが頑張ったんだ……。結局キスしたいだけじゃないか。……あーもう。とこちらもめんどくさくなって、無言で近づいた。片目を開けて間宮はそれを確認して、ポンポンと自分の膝を叩く。
……乗れってことか……。
迷ってると、間宮が腕をつかんで自分の方に引き寄せた。満足そうな間宮の顔が間近になる。居心地が悪く感じて俺は不機嫌に眉をしかめた。
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