第4話(一)
「───と、言うことは、イチャイチャだよね」
期末試験の前だから一緒に勉強でもするか、と言った返しがコレで───、俺は疲れを感じて遠くを見つめてしまった。
「……いや……話聞いてたか? そうじゃなくて……」
「だって一緒に勉強って言ったら、イチャイチャでしょう」
当の本人───間宮は、こっちの思考を読まず力説してくる。そういや前にもそんなことを言っていた。一度同好会で使っている図書室横の準備室で、スパルタ気味に勉強教えてしまい、後から苦情を言っていたのも思い出した。
「お前のそのこだわりはなんなわけ……?」
「浪漫の話だと思う」
「……………」
よくわからない。
通学路を二人並ぶ中、まだ朝早いのに夏休み前の強い日差しを避けて日陰を歩いているのだが、もう間宮の頭の中は暑さでどうかなってるんじゃないかと思ってしまう。
「別にお医者さんごっこがしたいとか言ってるんじゃないよ」
微妙な間宮の言い分に俺は半眼になってしまう。
「俺にとっちゃ、おんなじレベルだよ……」
まったく───。
「何がしたいんだよ。とりあえずその相手は俺なんだから、こっちの意思も確認してくれよ」
上背のある間宮を見上げて言うと、はたと動きを止めた後、興味深そうに俺をじっと見つめる。
「なんだよ」
「うん。相手は真純なんだよね」
嬉しそうに柔らかにはにかんで、俺の手を握ってくる。
「!」
カッと顔が熱くなって、俺は手を振り払った。
「ばか、外で止めろよ」
一瞬で最後までしてしまったことを思い出してしまい、ごまかすように口調を強めてしまう。
一週間前───になる。
あれ一度きりだが身体の隅々まで触られた感触が強烈に残っていた。触られると一気に思い出してしまう。
「だって、学校で触るのも駄目って言うから」
気に止めないように口元で笑って間宮が呟く。
「当たり前だろ。部室も人の出入りあるんだし」
今までだってきわどい所までしていたのが危なかったし、同好会顧問の渡辺先生には見られたのだ……。
うわあ……と穴に埋まりたくなってると、間宮がおずおずと言ってくる。
「……夏休みさ……どっか旅行行かない? 泊まりで」
「……………」
俺はじっと間宮を見た。ちょっと思案した後、言ってみる。
「東京。寄席に行きたい」
「───そう言うよね」
想定内と言わんばかりに、間宮はため息をつく。
「あ。お前やることやったら俺への対応雑じゃないか?」
「……人聞きの悪いこと言うのやめてくれないかな……」
なにやら傷付いた表情を見せる間宮に、「だってそうじゃないか」と一瞥する。間宮が慌てて否定する。
「違うよ。最初はともかく、今は自信が持てたから」
「自信? なんの?」
「真純が俺のことを好きなこと」
満足そうに笑っての発言に、俺はパチリと瞬きした。
「誰が? 誰に?」
「……そう言われるのも、傷付くんだけど……」
本当に傷付いたと顔を曇らす間宮に、「違うだろ」と俺は続ける。
「お前が俺を好きなんだろ?」
「─────」
じっと間宮が俺を凝視した。なんだよと思ってると、
「真純って……そう言うとこ真純だよね」
よくわからんことを言ってきた。
「なんだよ」
「……とにかくさ、夏休みどっか行きたい。一緒に」
「まあ、考えておくけどさ」
一応言ってみたが、
「泊まりなら、家に来ればいいじゃないか」
妥協案を提案すると、間宮は言いにくそうにデカイ体を縮ませながら、
「……いや、俺そんな度胸ないです……」
ある意味親公認(違うか)な感じなのに、なに尻込みしてるんだろう。───それに、と思う。
(今の誘ってみたんだけどな……)
おや? と肩透かしな気分で間宮を見やる。どうせそういうこと目当てなんだろうに、と今度は分かりやすくいこうと言い方を変えてみる。
「今週末の土曜、母親東京の父親のとこ行くって言って留守だけど」
単身赴任中の父親を思い出しながら続ける。
「───お前、泊まりに来る?」
「─────」
ぽかーんと、間宮は俺を見た。
「嫌ならいいけど」
「い、嫌じゃないです! ぜひっ」
「イチャイチャはしないけど」
「ええっ? どういうこと?」
表情を変える間宮が面白くて、俺はニッと笑ってしまう。
「とにかくそういうことでの期末試験の勉強なんだけど」
核心に触れないような微妙な物言いをして、俺は目を細めて、息を飲む間宮を尻目に歩を早めた。
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