第2話(三)

「───言いたいことがあれば言えよ」

 体育祭帰り道。物言いたげに、でも一言も発せず俺のあとを付いてくる間宮に、面倒だと思いながら誘い舟を出す。

「だから。藤井先輩も本気で言ってるんじゃないって」

 なんかこっちが悪くて弁明してるみたいで不本意なんだけど、と付け加えたくなったが、我慢して反応を待つ。

「真純は自覚がないと思う」

 口を開いたかと思ったら説教ぽくて、俺はげんなりした。

「自覚って……」

 なんとなく堀が言っていた事を思い出したが、そのことは追いやって、

「どっちにしろ俺はどうにもならないから」

 だから安心しろ、と言うのもなんだかなあ……と、うーんと内心唸ってると、ぐいっと腕を取られる。

「そもそも真純から好きって言ってもらったことない」

「……………」

 不安げに見つめて言ってくるのに、俺は押し黙った。

 面倒くさいこと言い出したな。

「今、面倒だと思ったでしょ」

「……………」

 変にカンがいい。

 ───的確に当てにきたのに俺はますます言葉に詰まったが、少し反論する。

「言ってないわけじゃない」

「伝わってないから、言ったうちに入らない」

「………」

 おっしゃる通りで。自覚はあるよ。

「……ちゃんと言って欲しい」

 腕を握り込んだまま、真っ直ぐ見下ろしてくるのに、どうしたものかと考えを巡らす。真剣なのはわかってんだけどなあ……。

 不安なのかな? 解消させてやるのが一番だと思うけど……。

 チラリと俺は視線を外した。

「あ」と声を出して、間宮の手をさりげなく離させた。

「家着いた」

 は? と間宮が固まる。

 伊達に近くの学校選んでない。

「じゃあ、また明日」

 間近に見える自宅の門まで小走りしながら、俺は手を振る。慌てた様子で間宮が言ってくる。

「ちょっ……それはどうなの?!」

 俺もどうだと思うけど、今は言える気がしない。しょうがないのだ。

 とりあえず今日はあきらめてくれ、と思いながら家の中に入る。

 ───明日どうしよ、と空中を睨み、間宮のスマホに『後で』とだけ送った。


 続く

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