第2話(二)

「そもそも隣のクラスのやつが体育祭の種目に口出してくるって、どういうことなんだよ」

 ───体育祭当日。

 納得しきれず俺は間宮に文句を言う。間宮は「どうなんだろ」と困った顔で返すだけだった。

 晴天。日差しが強くて歓声や放送部の解説が響く中、木陰に入りながら間宮と観戦している。すぐ前に椅子が並べられ、校庭で繰り広げられている(今は借り物競争だ)競技にクラスごとに応援している。次の次にリレーがあるのだが、そのエントリーになぜか俺の名前があった。申し込んだわけじゃないのに、そうなってるのは佐々木が口出しをしたらしい。

「なんなんだ佐々木は」

「……いや、なんか真純速いよって言っただけみたいだよ」

「そのせいで決まっちゃうし。間宮は? リレー出るの?」

「俺は足そんな速くないから。さっきの徒競走と騎馬戦だけかな」

「そう? 背高いのにな。とにかく練習にも駆り出されるし、散々な気がする」

 まあまあと、間宮がなだめてくる。それからふと気になったように、

「日に焼けそうだね。日焼け止め塗った?」

「─────」

 ………だからさー、と俺は思う。女の子扱いなんだよな。

「大丈夫だよ。真夏ってわけじゃないし」

「でも真純色白いから」

「平気だって」

 覗き込んでくる視線を避けてると、A組のやつが割って入ってくる。

「こら、高橋。間宮を懐柔して体育祭で優位に立とうとするなよ。あくまで敵同士なんだからな」

「してねーって。懐柔ってなんだ」

 そこまで勝ちにこだわってないぞ。ぎゅっと眉を寄せるタイミングで、競技中の校庭から声がかかった。

「高橋! ちょっと来てもらえるか」

 見たことない人物に名前を呼ばれて、俺は虚を付かれたが足を進めた。今借り物競争してるのを思い出したからだ。

「ちょっと行ってくる」

 ぽかんとする間宮に言って、その人物に近寄った。学年が違うのかなと見上げてると、腕をつかまれゴールまで引っ張られる。肩幅が広い。なんか運動やってんのかなと観察してると、「一位ゴール!」とアナウンスが入る。

「ありがとう、高橋」

 穏やかな笑顔で、俺に礼を言って腕を離した。いいえ、と軽く返して、

「ところで借り物のお題なんだったんすか?」

 気になって聞いてみると、その人はちょっと意味ありげに俺を見てつぶやく。

「───『好きな人』」


 * * *


 リレーまで走りきり(とりあえず二位までもつれ込んだ)無事体育祭が終わり、着替えが終わるとA組のやつらが廊下で待ち構えていた。

 ───なんなんだよ。

「お前ら、俺のこと構うの止めたんじゃないのかよ」

 げんなりして言うと、

「構わなくなったんじゃなくて見守り系にシフトをかえたんだ」

 シフトってなんだ……。

 疲れてんだから、変なこと言うのは止めて欲しい。

「藤井先輩のことどうするんだよ」

 急に聞かれて俺は眉をひそめる。

「……誰?」

「だから! 借り物競争のっ」

「あー、藤井先輩っていうんだ」

 のんびり言う俺に呆れた視線が返ってくる。

「なんで知らないんだ」

「三年の学年トップだぞ」

「すごいモテるって有名な人だぞ」

 はあ、としか言い様がない。

「どうするもこうするもないんだけど」

 何が言いたいんだと思ってると、あまりのことを言われる。

「間宮がいるんだから、心変わりはしないよな」

 ────だからなんだそれは。

 呆然とA組の面々を見渡した。

「あのさ。そもそも俺はモテそうな男が好きなわけじゃないんだよ」

 お前らの俺の認識ってなんなんだ。

「だいたい間宮だっていろいろ総合すればプラマイゼロだろ」

「……ひどいよ……真純」

 廊下の端で小さくなっていた間宮が傷付いた体で言ってくる。相変わらず身体デカイんだから隠れてないんだよ。

 そして「あれ?」と俺は思う。

 通じてない。

 けっこう遠回しで言ってみたんだけど……。

 おや、と居心地悪くなってると、一部始終見ていた佐々木がニンマリ俺を見てきた。

 ……お前は分かんなくていいんだよっ。

 全身が熱くなったが、ごまかすように俺は断言する。

「とにかく藤井先輩も劇で悪目立ちした俺に声かけただけだって! 本気にしなくていいし、俺も本気にしてないよ」

 また良くわからないA組のノリが復活して、なんなんだと戸惑いながら、今日は準備室に寄らずまだ落ち込む間宮に帰ろうと声をかけた。


 続く



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