色塗り

うぃんこさん

何故MMORPGにDPSチェッカーが公式に実装されないのか

俺がハマっているゲームにはDPSチェッカーがない。特に高難度コンテンツともなるとDPSが足りなくてクリア出来ないなんてことはザラにある。


俺がハマっているゲームはMMORPGだ。複数人数で協力することが必須となる。だから高難度コンテンツは弱い奴を排除して強い人に入って貰った方がよっぽど早く踏破出来る。


だというのに公式のDPSチェッカーがない。これはおかしい。きっちり数値化して、DPSの足りない人物をコンテンツから追放して行ければ良いのに。自分たちの調整に文句を言われるのが嫌なだけなのではないか。


俺と同じ想いを抱える人間はどうやら大多数いたらしい。ある日、非公式のDPSチェッカーが公開された。ゲーム内のバトルログを読み込んで、リアルタイムで数値化してくれる上にログまで残してくれる優れものだ。


これのおかげで、DPSを出している者と出していない者がしっかりと可視化されるようになった。クリアラインに達していない「灰」色から始まり、クリアラインギリギリの「緑」色、クリアラインを概ね満たしている「青」色、安定してクリア出来る「紫」色と続いて行く。なんだか冠位十二階みたいだ。


その上のトップ層が「橙」色、トップとほぼ同等の「桃」色、トップの「黄」色と続いて行くが、まあクリアだけなら「青」や「紫」を揃えるだけでいい。まずはウチの固定メンバーで「灰」色に塗られた人を追放した。


思えば「灰」とか「緑」の人は話が通じにくい事が多かった。もしかしたらDPSが出せない人はどこかおかしい人なのではないか。そう思うようになってきた。





あれから数年。俺はやっと「橙」や「桃」を塗れるようになってきた。「黄」は取れたり取れなかったりという感じだ。アレは運の領域にある称号だ。


自分のDPSログを「橙」色や「桃」色に染めていくのが快感でたまらない。「紫」ですら満足できなくなっている。


それに比べて「灰」や「緑」のクズどもはなんと向上心のないことか。こんな社会不適合者どもがいるせいで「野良でコンテンツをやるのはヤバい」とか「固定にこんなヤバいやつがいる」みたいな話が絶えないのだ。


そもそもこんな便利なツールがあるのに使わないのがおかしい。文句を言う前に色を塗って証明すればいい。最低でも「紫」以上で固めたパーティを組めば良い。己のログを履歴書とすれば良い。


そう、己を知らないのであれば俺が晒してやればいい。例えばSNS上で「野良がヤバい」とかわめき散らしているあいつ。『Infra Red』というプレイヤー名だとbioに上げてやがる。


あのDPSチェッカーは全プレイヤーの情報を開示出来る。と言ってもチェッカーでログを残した人と同じパーティに入っていなければ機能しないので全ての情報とまでは行かない。それでもある程度傾向は絞れる。


……やはり、紫外線インフラレッドの名を体現するかのような「灰」色がログに溢れている。多少は「緑」が生えていたり「青」くなっている部分もあるが、この火力DPSで偉そうなことを言うなどおこがましい。


俺は捨て垢を作り、「灰」だらけの暴言野郎どもを次々と晒していった。その「灰」を叩いているは俺の味方だ。「灰」や「緑」を蔑み、誰もが「橙」や「桃」を崇め称える。そうだ、社会はこうでなくてはならない。もっと現実的にも才能が可視化され、弱者と強者をハッキリさせれば良い。そう、現実にもDPSチェッカーを作ろう。そうすれば俺が一番偉い。俺が一番凄い。俺が。俺が。俺が。


「『Ultra Violet』さん。ここに呼ばれた理由はお分かりですね?」


突然、俺のゲームキャラが監獄に送られた。誰かが俺を通報してゲームマスターの所へ行かせやがった。この「桃」の俺を!


「いえ、わかりません……」


「貴方は弊社の禁止事項である『外部ツールを用いる』に反しております。よって、アカウントの剥奪を行うに値すると判断しますが、よろしいでしょうか?」


――何を言っているんだふざけるな。


「え、あ、あの……DPSチェッカーはみんな使っていますし、それだったらプレイヤーの大多数は使っているとは思うのですが」


音声入力だったらもっと早く本当の気持ちを表せるのに、キーボード入力がもどかしい!大体、あのDPSチェッカーの事は黙認するってプロデューサーレターライブで言っていたじゃないか!


「貴方が言う大多数がどのぐらいかは知りませんが、ツール使用者は貴方以外も例外なくアカウントを剥奪しています。ですが、これはあくまで『外部ツールを用いる』という禁止事項だけの話になります」


「え……エッ……?」


「『他者への誹謗中傷』『公序良俗に反する行為』。これはゲーム上だけではなく、社会で生きる上で基礎的なものかと思われます。貴方にはそれが欠けていると弊社は判断させていただきました。よって、登録禁止5年間が妥当かと思われます。何か弁明はございますか?」


何故、何故「桃」の俺がこんなに説教をされなくてはならない?そもそもGMコールにしたってこれは言い過ぎだろう。逆に誹謗中傷で訴えてやろうか。


「……お、俺は"桃"や"橙"が塗れる上位プレイヤーです。俺を追放したらこのゲームの平均火力は……」


「だったら残ったプレイヤー平均に調するまでです。貴方は火力DPSが出せるからって神にでもなったつもりでしょうか?そんなに色塗りが楽しいならチラシの裏にクレヨン塗り続けてろよ」


「ヒェッ!?」


GMの雰囲気が一気に変わった。というよりGMのアバターから黒いオーラが出ている。そして俺のキャラクターの頭を鷲掴みにし……


「いくら『ゴゼツデパーフヒャク』だろうが、人を晒し者にする時点で"灰"色ですらない無色だ。それがゲーム外で何になるのか、よく考えておけよ無職」


俺はこの世界から消えて無くなった。







「だからって、本当にその経歴引っ提げて面接に来る人います?しかもウチに」


「いや、本当にゲーム外で役に立たないのかなって確かめようと思って……」


後日、色を塗ることにかまけ過ぎていて職を失っていた俺は、俺を追放したゲームの運営会社の面接を受け、その度胸と集中力を買われてバトル調整班に配属された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

色塗り うぃんこさん @winkosan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ