第4話 生まれ故郷
俺は地下迷宮を脱出し、外の世界に来た。
そしてここから故郷の街を目指すわけだが……
目と鼻の先。
そう、俺の生まれ故郷の街は地下迷宮の入口から、5歩ほど歩いた所にあった。つまり地下迷宮を出るとすぐに街の入口になるわけだ。
「…………」
手抜きというか、大雑把というか、RPGのフィールド作りにおいても妹のセンスは絶望的だった。
まぁ、無事に故郷の街に帰れてよかったけど。
「とりあえず自宅へ帰るか」
俺は故郷の街へと足を踏み入れた。
しかし、主人公チョチョリゲールの故郷の街はかなり狭くて、建物は3つしかない。そのうちの1つがチョチョリゲールの家である。
残りの2つの建物だが、1つは小さな商店。もう1つは馬小屋だ。
俺は自分がステテコしか着ていない事に気が付き、家に帰る前に商店で服を買おうと思った。
「いらっしゃいませぇ」
「……こ、こんにちは」
「お爺さん、とりあえずアメちゃんいかがかしら?」
「あ、あぁ、どうもありがとう」
俺は商店の従業員であろう中年のおばさんに、飴を勧められた。
その飴の包み紙を見ると「劇薬:硫酸のど飴」と書かれている。
「うふふ、このアメちゃんを舐めると秒で天国へ行けるわよ」
「え、いらないですよ!そんな飴!」
「遠慮しないで舐めなさいな」
「結構ですって!」
俺が中年のおばさん(名札にはアメババアと書いてある)の飴を断ると、中年のおばさんの顔色がどんどん険しくなっていった。
「ふざけんじゃないわよ! 人が親切でアメちゃんあげてんのに!」
「し、親切って、それ普通に殺人ですから!」
「うるせぇー! こうなったら強引に舐めさせてやるわ!」
アメババアが俺の首根っこを掴み、強引に口を開かせようとする。
──く、こんな一般人的なモブキャラに攻撃してもいいのか!?
ていうか、なんで店員のおばさんにいきなり襲われるんだよ!?
俺の手が伝説の剣に伸びたところで、店の主人らしき男が顔を出した。
「あれ、ヨシカワさん。お年寄りでも、のど飴苦手な人いるんだよ。無理に勧めちゃダメだよぉ」
「あら店長。そうなの? 喉にとてもいいのに。残念ね」
店長の中年男の言葉で、ヨシカワさん(アメババアの本名か?)が落ち着きを取り戻した。
「いらっしゃいませ、私は店長のクチクサオです」
「……あ、どうも。私はチョチョリゲールと申します」
思い出した。
これは妹ナナミのバイト先のコンビニだ。
いつも龍◯散のど飴を勧めてくる、パートの吉川さんという人の話は聞いた事があった
それと店長の口臭がいつもキツイって言ってたので間違いない。
このイベントも、ゲームクリアするのに全く意味がないのは明白である。なので俺はすぐにその店を出て、自分の家に向かった。
すると、後方から先程のヨシカワさん(アメババア)が、走って追いかけて来た。
「チョチョリゲールさーん、良かったらペヤングでも食べて〜」
「────!?」
「もう湯切りもしてあるから、すぐ食べられるわよ〜」
「い、いらないですよっ!」
「遠慮しなくていいのよ〜」
まさか、ここで自分の死亡原因となるペヤングが出て来るとは!
「⋯⋯くそ、死んでたまるか!」
「はい、あ〜んして〜!!」
何とアメババアは、ペヤングの麺を箸で摘んで俺の口元に近づけて来た。
俺は何とかペヤングを躱すが、頬にペヤングの麺がこびり付いてしまった。
「このペヤングには猛毒も仕込んであるのよ〜」
「ふ、ふざけんな、クソババア!」
「秒で逝けるわよ〜」
俺は仕方なく伝説の剣を抜刀した。そして若返った力で剣を思い切り振り抜いた。
「──グギャアァァァァーァァァアアっ!!」
アメババアこと、ヨシカワさんは断末魔を上げて絶命した。
そしてその遺体は、人間から魔物の姿へと変わっていった。
「⋯⋯ま、魔物だったのか。人間じゃなくて良かった」
流石の妹も実在する人間を殺してはいけないと思って、そんな設定にしたのだろう。まぁ俺は「みおちゃん」を数十体も殲滅して来たのだが⋯⋯。
俺はその後、自分の家にたどり着いた。
「ただいまー」
誰もいないと思うが、一応俺は挨拶をしながら家に入った。
するとそこには、1人の少女がいた。
「お兄ちゃん、おかえりー」
「⋯⋯へ?」
「美少女ヒロインのナナミだよー」
「はい⋯⋯??」
「ゲームクリア、おめ」
「⋯⋯あ、ありがと?」
俺の目の前には、妹とはかけ離れた容姿をした美少女がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。