第3話 養護教諭・槙島(まきしま)カナエ 身長:240cm 趣味:医療品のパッケージデザイン収集、男子生徒の保健室入室履歴のスクラップ
ふふ……公知くん、また放課後、あのクラブ室の近くにいたわね。
今日で……8日連続。えらい、継続は力なり、って保健便りに書いたとおり。
(記録完了、シャッター音:無音アプリ使用)
生徒たちには内緒だけど、私はちょっとだけ“個人的な興味”を持ってる子が何人かいるのよ。
もちろん、正当な教職上の観察です。
ただ、公知くんの息のリズムとか、通学路での歩幅とか、あと昼休みの購買でパンを選ぶ時の順番まで……つい、全部メモしちゃうの。
ふふふふふ。
これって普通よね?
ね?
(メモ帳:『公知、本日もミルクフランス優先→牛乳→窓際→黙食。声は出さず、目線だけで友人と会話。高等技術。知性。繊細。尊い。』)
──そのとき、校内放送が鳴った。
「……旧校舎地下倉庫の非常電源が作動しました。関係者は確認をお願いします」
あら、また変革達人クラブ?
黒野さん、阿知向手くん、そして……もちろん、公知くん。
(にっこり)
……やっぱり、行かなきゃ。
彼らは知らない。
あそこには、私が昔、校内心理研究部としてこっそり設置した“観察箱”がまだ残ってるということを。
ええ、つまり……あれは私の領域。
聖域よ。
私は白衣の袖をまくり上げ、軽やかに保健室を抜ける。
(ズズン……ズズン……!)
その巨体からは想像もつかないほど静かな足取り。
でも、廊下の振動だけは止められない。
「……ッ来た!槙島が動いたぞ!」
「マジで!? 地響きしてるもん!てか何でいつも居場所バレてんの!?」
「目と目が合った時、魂まで覗かれた気がした……」
「……俺、保健室行っただけで個人カルテに“舌の動きが小動物的”って書かれてた」
ふふ、彼らの会話、筒抜けよ。
だって、私は風の匂いで彼らの体温を感じ取れるんですもの。
──さあ、公知くん。
そのプリント(という名の運命)を手にしたあなたを、私は止めに行くわ。
もちろん、優しく、
丁寧に、
ほんの少しだけ物理的拘束を加えつつ。
「保健室、空いてますよ……ふふふふふ」
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