第24話 リアムの告白

「リアム・・・」

その日の夜、薬を飲み終え横になる私を支えるリアムへ、そっと声をかける。

あれから暗い顔で一言も発しないリアムに、胸が締め付けられる。

重々しい雰囲気に耐えれず、リアムの名をまた呼ぶ。

「リアム・・・もう私と言葉を交わしてくれないのか?」

「・・・・・」

「無責任に、お前を置いて死にゆく私が恨めしいか?」

その言葉に俯いたままのリアムが勢いよく顔を上げる。

今にも泣きそうな表情をしたリアムの顔をそっと撫でる。

「悲しませてしまってすまない。お前の声はずっと届いていた。側にいたいと願う声が・・・」

「・・・・ラファエル様」

ようやく聞こえたその声は、小さく掠れ、震えていた。

「・・・ラファエル様・・・少しだけ、僕の話を聞いてくれますか?」

少しの沈黙の後、思い詰めたような表情で言葉を発するリアムの頭をそっと撫でる。

「あぁ、もちろんだ」

そう言って微笑むと、リアムはまた俯いてポツリポツリと話始めた。


「薄々気づいているかと思いますが、僕は記憶を少しずつ取り戻して来ています」

その言葉にやはりなと目を細める。

無言で話を聞く私に、リアムは顔を上げないまま言葉を続けた。

「・・・正確に言えば、森を追い出された所までは記憶があったのです。ただ、それ以降の記憶がなく、どのように生きてきて、何故あそこにいたのか思い出せずに、ただ茫然とあそこに座っていたんです。ラファエル様と出会って、ただ毎日が楽しくて、あの日僕が言った言葉の意味もわからぬまま、僕自身もさほど気にも止めてなかったんです。ですが、ここで過ごして半年程経った頃から、早く思い出せという声が頭の中で聞こえるようになったんです。それで、森へ・・・・」

言葉を止めたリアムは、ゆっくりと顔を上げ、私をまっすぐ見つめる。

「・・・・僕は、ラファエル様と同じように時を繰り返しています」

全く予想していなかったリアムの言葉に、私は息を呑み、目を見開く。

「その中で幾度となくラファエル様とお会いしています」

「そ・・そんな、まさか・・・」

「何故そうなったのか、何故繰り返す度にラファエル様と会っているのか・・・それはまだ思い出せません」

リアムはそう言い終わると、そっと私の手を取る。私はまだリアムの言葉の意味が理解できずに、ただ茫然とリアムを見つめるしかなかった。

「ただ・・・・僕は繰り返される度にラファエル様を自ら探し、側で見守り続けていた。そして、ラファエル様がソフィア様を想い続けていたことも知っています。切なくソフィア様を見つめるラファエル様を見続け、生き抜こうと足掻くラファエル様の強さに僕はいつしか惹かれる様になりました。僕は・・・僕は、何度も繰り返す時の中、幾度となくあなたに惹かれ、心から愛するようになってしまったんです」

真っ直ぐに私を捕える視線に、いつかの私を重ねる。

もう手放してしまった恋焦がれる気持ちを、リアムと同じ熱の籠った視線をソフィアへと向けていた自分を・・・重ねてしまったことで、リアムの気持ちが心の奥深くに入り込んで、目を逸らせずにいる。

「今まで秘めた想いです。同じ想いを返して欲しいなどとは望みません。ただ、ラファエル様の側にずっといたいのです。今世であなたから沢山の幸せを貰いました。今まで言葉を交わすのも難しかったのに、今は一番近くで言葉を交わし、微笑み合える・・・それだけで充分に幸せです。私の願いは、どんな形でもあなたの側で一分一秒でも長く生きていたい・・・ただ、それだけなんです。だから・・・」

言葉じりに一筋の涙を流し、自分の手に包み込んだ私の手を引き寄せ、そっとキスを落とす。

「だから、生きてください。僕を置いて行かないで・・・」

そう言い終えると、リアムは小さな嗚咽を漏らしながら縋るように手を握り締め、静かに泣き続けた。

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