第23話 想いと願いの全て
父が部屋に入って来た瞬間、ベットのそばへ来て欲しいと願いでる。
そして、皆に話を聞いて欲しいと更に願い出た。
静まり返った部屋で、皆が何事かと私へと視線を向ける。
その顔を一人一人見渡した後、ゆっくりと口を開いた。
「お父様、私はもう長く生きながらえないのでしょう?」
「何をっ・・・!」
私の言葉に父が、酷く動揺した顔で声を上げる。
後ろを見ると、兄達とリアムが眉を顰め私を凝視している。その横ではカルデアが何を言っているかわからないという顔で口をぽかんと開けていた。
ソフィアは黙ったまま俯いた。
それでも、私は言葉を続けた。
「私は何となく察していました。年々酷くなる体調の変化、そして、お母様譲りの青い髪色が無くなった時も、唯一、私が家族の一員だとわかる最後の砦だったお父様譲りのグリーンの目の色も、今は色素を持ちません」
そう・・・目覚めてから初めて見た自分の姿に、恐れも寂しさも溢れ落ち、諦めの感情と素直に受け入れた自分がいたのだ。
かろうじて取り留めていた目の色は、今はもう面影もない薄いシルバーになってしまった。
「何を・・・お前の姿がどうなろうが、お前は間違いなく私の自慢の息子だ」
そう慰める父親の手を取り、しっかりと握りながら微笑む。
「わかっています。私もお父様とお母様の息子である事に誇りを持っています。そしてお兄様達の弟である事に誇りを持っています」
そう言いながら、兄達へと顔を向けると悲しそうな表情で口を開く事なく私を見つめていた。
「お母様が、私が目覚めた時以来、ここへ来られないのは看病疲れではありませんよね?もちろん、疲れもあるでしょうが、長く生きられないと医者から告げられたからではありませんか?私の顔を見るのが辛いのでしょう?」
私の問いかけに、父は答えられぬまま俯く。
「私は・・・春までも難しいのでしょうか?」
その問いかけに、父は勢いよく顔を上げた。
「何を言っている!?お前は死なない!どんな手を尽くしても私が生き長えさせてみせる!」
怒りに似た声をあげる父に、一番上の兄が嗜めるように側に来て、父の背を撫でる。
そして、もう1人の兄もそばに来て、唐突に私を叱咤する。
「弱音を吐いて親を悲しませるんじゃないっ!お前はもう1人ではないのだ。私達家族はもちろん友であるソフィア嬢も、ビジネスパートナーであるカルデアも、そして何より、お前が見つけ、この家に連れてきたリアムに対して責任を持たないといけないのだ!一緒に始めたばかりの事業もあるのに、そんな弱気でどうする!?」
兄の叱咤に私は目頭が熱くなる。
口を開こうとしても、喉に何かが詰まったように声が出ない。
「ラファエル様、僕を泣かせないと、優しくすると言ってくれたじゃないですか。どうして、また僕を泣かせるんですか?それもこんな酷い言葉で・・・」
嗚咽を漏らしながら泣きじゃくるカルデアが、首元の服を握り締めながら私へと懸命に言葉をかける。
その横でソフィアがカルデアの背を撫でながら、同じように涙し、私へと視線を向ける。
「ラファエル様、無責任ですわ。リアムだけでなくカルデアもラファエル様が連れて来たのですよ。私の事も事業に巻き込んで・・・おかげで淑女より事業をする楽しさに芽生えてしまったのですよ。責任とってください」
ソフィアの言葉に、私は小さく笑う。
「そうだな・・・弱音を吐いている場合ではないな。皆に対する責任を負わねばな・・・ありがとう・・・私ももう少し争ってみるよ」
やっと声に出した自分の言葉に、涙がとめどなくこぼれ落ちる。
そんな私を父が、兄達が優しく包んでくれる。
「お父様・・・お母様に会いたいです。お父様から伝えてもらえますか?」
「あぁ・・・私が連れてこよう。大丈夫だ。あれでもお前の母は強い」
「・・・えぇ。私のお母様は、他の誰より気品に溢れ、優しく、強い人です」
私はそう言うと、ふふっと声を出して笑った。
そして、ふと視線を片隅にいるリアムへと向ける。
リアムは拳を握りしめながら、じっと床を見つめていた。
悔しそうな、悲しいようなその表情に、リアムにそんな表情をさせてしまった事に、私の胸は鈍く重い痛みを残した。
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