昔の治安が悪すぎますわね

 閉廷を告げられ警察庁の一室は裁判所としての役割を終えた。

 傍聴人が減っていく中で動くことない集団がそこにいた。


「あれほどゴネたのにルイーズ大公の名前一つでこれですか」

「若かった頃のルイーズ姉はそりゃあもう……すごかったですからね。やつも帝都にいるなら見たことがあるでしょう。年齢的に子供の頃かな?平民であの恐れ方は」

「話には聞いてはいますけどね……。宮城粛清事件とかも派手にやったのでしょう」

「それでも大分マシですな。町中で堂々と処刑を始めるほど無法国家だった時代でしたし。即席凌遅刑か、大通りで即席石打ち刑か、袋にいれて馬車に括りつけて帝都一周か、もしかしたらオープン馬車で狼藉者を射殺しまわった頃かも。どれかを見たのでしょう」

「この世の終わりかなにかですか?」


 リリーナは聞いていたよりひどい惨状に唖然としながら尋ねていた。


「まぁ貴族排斥派も似たようなことしてましたしね。誰も語りたがらないでしょうね、シュツッテンファンベルク公爵は……」

「お父様は当時のことは語りたがりませんわ。まぁ貴族で非名家というだけで知名度はあっても色々あったでしょう。黙して語りませんし、言わぬことを聞くことはしませんわ。家族ですもの。好き好んで触れられたくない傷に触れるのは家族がしていいことではないですわ」


 カトリノーは意外と普通の家庭なんだなと思いながらリリーナを軽く見た。


「まぁそういうものでしょうね。そろそろ出ましょうか」

「いいえ、ここはでしばらく使えることになっておりますの。ねぇ皆様」


 近くで固めている他に、遠くで座って警戒しているリリーナ閥の人間はちらりとリリーナを見て頷いていた。


「おかしいですね、警察庁は内務省から別れたばかりですが……」

「内務省時代からつながりを持っておくにこしたことはありませんわ。なにせ無任所大臣ですもの。そもそもウェラー公爵派閥の末端のおバカさんを摘発するのに必要なものはいくつもありますからね。大臣になる前からの付き合いですもの」


 なるほど、それは北に飛ばされるわけだ。


「それで?一体私になんの用があるのでしょう」

「私達の派閥に入りませんこと?」

「孫に近所の公園に誘われた気分ですな。興味がありません」

「別段ルイーズ大公に喧嘩を売りたいわけではないですわ。というより先程の話を聞いて流石に引いている私がいます」

「大丈夫です、ほんの30年前は日常の風景でしたから」

「…………もっと早く生まれていればと思いましたけど生まれていたら生まれていたで大層危険だったかも知れませんわね。伊達政宗が10年生まれたら天下を取れた理論のようですわ」

「誰ですかそれは?」


 困惑しながら尋ねるカトリノーにリリーナはあれ?と思いながら説明を始めた。


「異世界の戦国時代ってわかりますか?あの織田信長とか」

「ああ、美少女でしたな。恋愛関係のこじれで謀反を起こされたんでしたっけ?」

「それは創作小説のほうだと思います。多分創作のはずですけど……」


 よりによって変な知識を持っていたカトリノーに出だしから遮られたリリーナはどうしましょうと内心思いながら話を続けた。


「戦国時代の異世界の日本国を統一寸前、いや当時の価値観だと統一してますわね。まぁ……どこから説明したらいいのかわからないですが当時の有力諸侯。まぁウェラー公爵だと思えばいいですがその時代です。彼の亡き後に家臣の1人が筆頭勢力になり日本を統一したのですが、その時代北の方で勢力を誇ったのが伊達政宗です。彼は抵抗を見せましたがあっさり降伏して勢力を減らしながらも維持しました。もし10年早ければこっちが天下を取っていたかもと言われたのです」

「それは北に行ったあなたのことを異世界の話に当てはめた作り話では……」

「いや、本当にありますのよ。初代宰相が嘘をついてなければですけど」

「それで?」

「実際10年早く生まれてたら倒した勢力が全盛期だから倒せず、それができるなら父親の代でできるだろうとという話ですわ。つまり私が早く生まれても結局同じ様になったということでしょう」

「ああ、そういうことですか」


 カトリノーは納得いったように頷いていた。


「あまり詳しくはないのですね?」

「勉強しておきましょう」

「独眼竜ですわ、なかなかおもしろい御仁ですわよ」

「ああ!中二病で龍を目に封印してる人か!」

「それも多分創作ですわね、でも異世界だしそっちが真実かも知れないし……うーん、いや多分創作ですわ」

「龍を目から出すと肖像画で目を書いてくれ!恥ずかしいから!って言った人ではないのですか?」

「龍を目から出すところが創作でそれ以降は真実だったはずですが……」

「そこだけ真実のほうががっかりですな」

「それは私に言われても困りますが」


 リリーナはすっかりボケ老人のような言動に手玉にとられていたが、カトリノー自身は真剣である。


「結局人は配られた手札で勝負するしかないのですわ。過去遡及能力は持っていませんでしたし仕方ないですわね。こちらにはルブラン商会もおりますし、ルイーズ大公とやり合う気はありませんわよ?」

「口だけでは好き放題いえますな」

「そうかしら、オリバー?」

「…………はい」


 授業終わりに警察庁にやってきて傍聴人になり、疲れ果てたオリバーがそこにいた。

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