裸の王様
「不正だ!控訴するぞ!」
死刑は回避できない。
そのことすらわからないとは流石に思えないがベルヌーイはあがいていた。
最後まで生きることを諦めないと見るか、生き汚いと見るかはそれぞれだろう。
最も傍聴人で称賛してる人間はいない。
「その場合は無罪になった人間も再調査の必要もありますな。罪状を考えれば死刑の人間が無罪になることはないでしょうが……。死刑を回避できた人間が死刑になる可能性は上がるでしょうな」
少なくとも無罪になったり、死刑を回避したものは生き汚いと判断するだろうし、財閥の会社で働くものは早く死んでくれと願うだろう。
そして帝国すらも。
「この裁判の間、あなたの会社の営業は止まる。罪状的に死刑を回避できないことはわかりますか?」
「いいや!これは不正だ!私が死刑になるはずがない!」
「いいですか?これ以上帝国の不利益を与えて死ねば族滅が五親等になるやもしれませんよ?帝国に虐殺を行わせるつもりですか?」
「知るか!控訴だ!控訴だ!死刑だけはありえない!すべて部下が勝手にやったことだ!だから嫌だったんだ!親族だけなら社内政治になることはなかった!」
「ここで正式に裁判を開く場合あなたの親族が関わった事件の精査に入りますがね。まぁベルンカッソ死刑囚も先程刑場に行きましたが、証拠は十分なので」
そう聞くとベルヌーイは唖然としていた。
「叔父が死刑……」
「ええ、それとベルトラン社長も死刑です。どうしてあなたが死刑じゃなないと思ったのですか?」
「すべて彼等がやったからだ、私はお飾りだった」
途端に私は悪くないという倫理で逃げ切ろうとするベルヌーイに裁判長のストラトフォードも呆れを通り越したような表情をしたあとでいつもの鉄面皮に戻った。
しかしながら呆れた声は第一声で漏れてしまっていたが。
「はぁそうですか、証拠物件28。あなたが会議で神聖帝国関係の計画を言い出した議事録です。我々は裁判を省略をしましたが死刑に足る証拠があるものはすぐに決めているのですよ。むしろ死刑でない場合のほうがどのレベルにするか困るくらいでしてな。あと証拠物件48。証拠物件49。あとは……口座のお金の動きは証拠物件いくつだったかな?デューイ検事」
「96です」
さしものデューイも呆れた表情でそういうと椅子から立つこどころか頬杖をついて証拠品リストをペラペラ眺め始めた。まだあがいてうだうだと言うのであればどれを出そうかと、財閥トップが死刑で足掻くことは流石に想定してなかったので非常にうんざりした表情であった。
「少なくともこれは帝国の不利益ですよ、アルミ金貨1枚。大層な入金ですね、入金したのはベルソンヌ商事で、その金額の元は。ああ、あと指示書の証拠物件は62でしたかな?」
帝国への忠誠心であるアルミ金貨を使ったのか?などと形骸化した忠誠心で詰めることはできないのでアルミ金貨の入金自体はあっさりと流してストラトフォードはつらつらと述べ始めた。デューイがやっても良かったが彼も眠かったのだろうか、どちらかと言えば検事のような口調で説明を始めた。
「ええ、そうです。個人口座にアルミ金貨1枚を振り込むようにベルヌーイ被告が指示をしたメモ書きです。このアルミ金貨は仲の良い女性に家や宝飾品などを買うために消えましたが。そもそもこの利益は裏帳簿にあったものでして、ウェラー公爵の反神聖帝国の支援の金を抜いていた。まぁウェラー公爵も気づいていたかも知れませんがね。ああ、失礼元公爵でしたね」
デューイも頬杖をつきながら証拠物件62そのものを見てひらひらとさせていた。
「謀反人の金を抜いていただけで罪に問うのか!」
「反神聖帝国の支援金ですよ?帝国の利益に叶う行為ではないですか、それを横領したのであれば帝国の不利益です。まだ控訴するつもりであれば構いませんが……。そもそも財閥の根幹企業のトップ層はほぼ死刑を受け入れましたし、この案件で保釈は認められませんし、そもそも仮に認められても全財産は抑えられているのであなたに保釈金は出せませんよ?」
「それが……!?」
「そもそも穏和に終わらせようというのに自分含めて厳罰を望むと公言する人を支援する奇特な人はいないでしょうね。奇跡が起きて保釈金が認められても罪状と直前の財力からしてアルミ金貨……500枚くらいですかね」
「500……」
そのような金額、財閥が健在であっても財布からは出てこない。かき集めなければ出てこない。
その上帝都でこの金額を即決で出させるといえる人間は限られる。
だがその誰とも関係性はない。
財閥であることを鼻にかけていた彼はただの金持ちとつながりはなく、唾棄すべき貴族とつながりを持たない。
同じ財閥レベルとしか交流してこない彼には頼るすべなどない。
ベルンカッソが死んだ今では名前が出てもどうにもならない、その上初対面で外患罪主犯とまで言われた彼を助ける奇特な人間はいない。いくら戻ってきても無駄金である。
帝都から視野を広げたところでルイーズ大公が出すわけがないし、出したところでルイーゼが頷かなければ辞めるだろう。
ベッサ公爵は自分の財布を正しく認識していないのでそもそも出せないと判斷し、理解したうえでもなぜ出さなければならないと思って終わりである。
それこそカルマン内務大臣か、世話になった法務省法務局復讐権処理部財産課のクレインがカールに出してほしいとでも言わなければ動かないだろう。
帝都だけでもリリーナ・シュツッテンファンベルクが嫌がらせと見世物見たさで出す可能性がないわけではないが、その場合の本当の目的は保釈金支払いのための捻出であると言って不要な資産を堂々と売却して
カローザス侯爵?浮いた金は刀を買うのでそのようなものには使わない。
むしろ財閥解体後に刀剣コレクションが放出されてることを期待してるのですぐ死ね、今死ね、すぐ売れ!とウキウキしてること間違いない。
基本的にそんな大金を即金で出せる人間は限られるのだ。
皇族でも数人しかいないだろうし、皇家に至ってはもういないかもしれない。
捻出するために頑張れば出せる人間はいるかも知れないがそこまでする義理も関係もない。
そもそも神聖帝国を支援していた主犯という肩書だけで冤罪でも容疑がかかる時点で問題があるから仕方がないとすら思ってる平民の方が多い。臣民というものはだいたいは他人事で薄情なものだ。
もっとも有罪を無罪にしてルイーズ大公が帝都襲撃をしてくる可能性を考えたうえでかも知れないが。
ベルヌーイは父親のやり方を学んでいた。
父親のベルソンヌは財閥に仕立て上げたその能力と財力と人間関係のつながりを持って黒を白にしてきた。
しかし今の彼にはすべてがない。
プッティン・オン・ザ・リッツでロートルドやゼジュユルドに手玉に取られたように自分がこうすれば思い通りに行くという幻想を持って立ち向かい無策で死ぬ。
ベルソンヌ亡きあとでベルソンヌのように働き根回しをしていた叔父もいない。
彼を擁護するのであれば一介の商人であればそれなりに成功はしただろう、彼には相場を読む力もあったし、肌でどれが売れるかがわかるような力があった。
それは父が教えたものだったがそれを活かせる能力だけはあった。
だが彼には致命的なほど人の上に立つ器がなかった、それが現状を招いたことを理解できるほど人情も理解してなかった。
裸の王様はここにて裸であることに気がついた。
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