財閥の終わり
帝国最高裁判所長官ジョン・ストラトフォードは激務の中にある。
ほぼ不眠不休で裁判の判決を出し続けており全員はもう寝る寸前である。
彼よりも書類をまとめてる管理のほうが死にそうではあるがこれが終わればすべてが終わるという彼等の安心がいまだ彼等を起こしていた。
ブラックコーヒーを裁判中にすするなど許されざるだろうが、とにかく帝国経済のため即座に終わらせろ、証拠があるものの判決だけは決まってるんだから簡略化していいと言われ、帝国へ不利益を与えたとして括り死刑を連発したり、族滅のため裁判カットなどの芸当で処理してきた。
一番厄介なのは金銭の動きがおかしいぞ!とゴルゴル出版を調べたら欠損金の繰戻しによる還付が数年単位ででてきたことだろう。
毎年利益が大幅に下がっているので還付しっぱなしである。これがなければ1日で裁判は終わったんじゃないかとすら思うほど書類の取り寄せが面倒であった。
国税庁もいつもと違って大分下手に出ていたくらいであった。
厄介な罰金刑は判例を引っ張り出して、それとなく臣民への配慮のため金額を上げたりと四苦八苦している。
法務大臣室から連れてこられたカミンスキー・レッド法務大臣も別室でこれは前例で罰金金額がこれ、別の罪があるから平民でこれだけある。国民感情に配慮してもう少しとってもいい。などと言いながら手伝ってはいるのだが早めに終わってとっくに帰ったのでストラトフォードと蜂合わせることはない。
「ロートルド財閥、ロートルド代表。帝国に不利益を与えたため死刑」
「最後に一言よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「バーゲンハイムに後は任せると伝えてください。彼は無罪か軽微な罪のどちらかでしょうから生きているでしょう?」
「……いいでしょう」
ロートルドは覚悟を決めていたようで係官にどこへ行く?と訪ね、そっと案内されてでていった。
一代で財閥を気づき上げた男は、同じく一代で財閥を気づき上げた高田豪三郎と違う結末を迎えていた。
ただそこには最後に見せてやろうという堂々とした態度があっただけである。
「タルタ財閥ヘイドン・セラーズ代表。帝国に不利益を与えたため死刑」
「無念ですな。私は帝国の為働いたのですが。ウェラー公爵閣下とあの世で愚痴るとしましょう。皆様によろしく」
ヘイドンは嫌味を言い去っていった。
余計なことを言って族滅にでもなったら困るとでも言いたそうな顔で係官の案内に従ってでていった。
「ベルソンヌ財閥ベルヌーイ総帥、帝国に多大な不利益を与え、外患罪主犯として死刑、族滅。三親等」
「どうしてだよ!なんでだ!私は常に会社の利益を重視して部下に任せただけだというのに!」
あまりの見苦しさに傍聴人は呆れた顔をしていた。
どうあがいてもあの大捕物の後で死刑の回避は無理だったのにこの期に及んでごねるのかと驚いていた。
ただの財閥解体どころか責任者の処刑に発展した今回の出来事で上が無傷な訳が無い。
せいぜい痛手を追わせてやろう、上手く行けば財閥解体と思っていたところでこれである。
むしろ察して大人しく刑に服す態度を見せたほうが、後世で彼等なりの正義があったのだ、ウェラー公爵死後に彼等ですら財閥の統制ができなかった責任を取ったのだと美談に仕立て上げることも出来た。
金持ちというものは死後の名誉も求めるものだ、ここで名誉が落ちても後世評価が変わるなどよくあることなのだから。
だが彼の醜態がそれを阻止した。
「やはり連中のせいだ!一族経営を徹底していればこんなことにはならなかった!」
「罪の大半はその同族ですがね」
「そもそもこんなもの裁判ではない!こちらの証言は一切聞いていないではないか!」
「この証拠が偽物だと?筆跡鑑定でもあなたのものだとでていますよ。帝国として人員を総動員しているのです。そもそもこと外患罪に関してそこまで丁寧にやる必要はないのですよ。売国奴の言い分など聞く価値もない」
ロートルド、ヘイドン・セラーズがすべてを悟りゴネずにただ判決を聞くだけで控訴も何も言い出さず粛々と受け入れたことに比べるとベルヌーイはすべての経験が不足していた。
彼等も何も死後の名声だけを守るために受け入れたわけではない。
ロートルドは信用できる相棒のバーゲンハイムが残っており、政治的な事情もあって重い処罰が下ることはない。だからこそ家族の面倒を見てもらうために、解体されても取引でつながりがある元財閥をつなぐために全ての泥をかぶった。
逆であったらバーゲンハイムが泥をかぶり、ロートルドが彼の家族の面倒を見ただろう。
ベーゲンハイムもロートルドも若い頃の決まり事をただ守っただけである。
ヘイドンも同じ事情で財閥が解体されても族滅でない以上は家族も残る、元財閥も罪に問われなかった、問題のない会社であれば不正のないと国家のお墨付きである会社として取引先も増える。
だれか問題のない親族が遺産を相続して受け継ぐはずなのだ。
ベルヌーイにはそれもわからない。
そんな苦労をしていない。
父親が苦心して作り上げた財閥を彼が破壊した。
高田豪三郎が信頼できないが優秀な人間を入れざるを得ない状態に追い込まれ足元を救われたのとは違い、信頼できなく無能な親族を重用して破綻した。
もとより座っていれば成り立つほど大きくなった会社のトップはだめになった。
引き締めていたベルンカッソを持ってしても、ベルヌーイのやり方で崩れていく会社は止められなかった。
だからこそその方針に乗ったうえで行動せざるをえなかったのだが。
先代は兄のベルンカッソを後釜に据えたかったが傀儡を望む派閥に息子を推され、面倒な派閥争いと後継者レースを嫌った彼はそれを受け入れた。
ベルンカッソ派閥はそのことを悔しく思っていたが、今日この日この時……その判斷が正しかったことを証明した。
ベルヌーイには人の上に立つ器はないと。
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