夜空
水面が揺れる。すると、水面に映る月の光も、淡く消えるように揺れる。夜空に浮かぶ満月は、心を揺さぶる。なんていうことはない普通の夜空。それなのに、どうしてこうも哀しみを覚えるのか。
樹々が揺らめき、騒めく葉音。それすらも私の心を捉えて離さない。
ふと、とある言葉を思い出す。
使い古された言葉だ。誰もが知っていると言ってもよい言葉。
「同じ空の下で、繋がっている」
本来であれば、友との別れを思い、慰めるための言葉。だが、私にはどうもそう感じることが出来ない。
私が他の人と違う感覚を持っているのかもしれない。それに、私はこの言葉の持つ意味を否定したいというわけでもない。ただ、私の思っていることは違うということを言いたいだけである。この自然に包まれた庭から月を見上げるとき、いつもこのようなことを思っていると、知ってもらいたいだけである。
皆は、空は繋がっているから自分のことを忘れないでなどと思って言っているようだが、これを額面通りに受け取るとどうも私は心が騒めく。
同じ空の下にいる、というのは地球にいる全ての人に共通していることである。どんな人であっても同じように空の下で生きているのだ。
不幸なことだ。心を締め付けられるようだ。
それはつまり、見知らむ人の不幸も同じ空に下で起こっているのだということだ。
そんなことを考えていても仕方がない?
そう、多くの人は断じる。
だが、この事実から目を背けるのは、どうも私にはできない。この同じ空の下で、或る人は世の春を甘受し、また或る人は世の冬に身を置いている。それが、とても哀しい。
今現在、遠く離れたところで起こっている不幸を、悲しみを私は救うことは出来ないし、そこにいたとしても救える自信はない。
そんなことをつらつらと、月を見上げた時、思ってしまうのだ。
また、月を見れば、気付く。月もまた、人々の幸不幸に関係なく、降り注いている。
あぁ、なんと、哀しいことか。
私には、どうすることもできない。
虫の音が聞こえてくる。まるで、私の哀しみに寄り添うように、その音は感ぜられる。
多くの人はどう思うのだろう。
この満月を、夜空を見て。ただ、その自然という美しさに感嘆するだけなのだろうか。
まるで、鏡のようだ。人々の全ての幸福も不幸も私に想起させる鏡。それなのに、目の前の光景は、慈しみ、包み込んでしまいそうな、あまりに神秘的な自然。
微かに、肩が揺れる。
寒さが、体に染みてくる。
あぁ、私の哀しみよ。
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