短編

4/1(エイプリルフール)

 


 彼女は言いました、今日で、お別れだね、と。


 うん、そうだね、と彼は答えました。


 誰もいない、夕日で照らされた桜並木で、二人の間に沈黙が訪れました。


 二人の間にこれまでの思い出が駆け巡りました。


 笑いあったり、泣いたり、喧嘩をしたり、当たり前の光景が溢れ出るように思い出されます。


 二人にとっては、とても、とてもかけがえのない光景でした。


 ありきたりですが、二人は、この時が止まってしまってほしいと願いました。


 もちろん、そんな夢のようなことはなく、日は沈み、桜並木を照らしていた光は消え失せ、代わりに街灯が光を灯しました。


 言いたいことはたくさんありますが、それらは言葉にならず、言葉にする前にするっと消えて、他のことを言おうとしてしまいます。


 それでも、二人は、分かり合っていました。


 自分たちの心は通じており、誰にも邪魔されない最後の世界を分かち合っていると。


 彼は、歩いていました。


 そして、彼女を見つめます。


 どうしたのと、彼女は言いました。


 彼は、無言でした。


 けれど、彼女は彼の表情を見て安心したような顔をて、目を細めます。


 風が吹いて、花吹雪が舞います。


 まるで、泣いているようです。


 儚げな花弁が地に落ちて、それがまた風で舞い上がって飛んでいきます。


 「好き」「えっ…」「……嘘、今日、エイプリルフールだし」「それって」「あぁ、もうじゃあね」


 そう言って、彼女は走り出していった。


 それを見送る彼は、呆然とした表情で。


 走り去っていく彼女の表情は、暗くてよく見えなかった。


 

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