第3話
ご主人様の家は町の外れにあって訪れる者はそうそういない。今日は珍しく客人がやって来た。ご主人様と同じ黒髪の男だ。私は邪魔にならないように2階に居る事にした。
物音を立てず、2階で聞き耳を立てていると男に椅子に座るようにご主人様が言っているのが聞こえた。
それから雑談を始めたが話の内容は実に他愛のない物だった。大抵男が一方的に話していた。あそこの娼館はぼったくりだっただとか、この町の飯は頗る不味いだとか、町の近くの草原で魔物が多く出て処理したら草原が穢れて問題になっているだとか、男が狙っていた討伐ギルドの受付嬢に彼氏が出来たとか、そう言った世間話だ。
ご主人様は聞き手に徹していた。
雑談も落ち着いてくると男がやって来た理由が何となく分かってきた。どうやら討伐ギルドへの勧誘が目的らしい。先ほど話していた魔物の討伐によって男の仲間が死傷して人手が足りないらしい。
ご主人様は治癒魔術が得意らしく、男のパーティへの加入を迫られているようだ。
ご主人様は男のパーティへの加入を断ったらしい。
男は「そうかい」と言ってそれ以上強要はしなかった。言ってみただけなのだろう。
ご主人様は「負傷者の手当なら協力する」と言ったが男は「そっちは間に合ってる」と言った。
それから飲みに行こうという話になったらしい。決まってから階段を上がってくる音が聞こえ、私の部屋の扉をノックする音がした。
私が出るとご主人様が「これから飲みに出かける夕飯はある物を何でも使って作ってくれて構わない。すまないがよろしく頼む」と言った。
私は盗み聞きをしていた事がバレないように振る舞った。
窓の外にはご主人様と男が歩くのが見える。私はぼーっと見送ると、目をつけていたジャーキーをどう調理しようかと思案した。
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