第41話 パワードスーツの分解 10
台車を押して戻ってきたアイカユラの荷台には何枚もの板が乗っていた。
下には広めの木の板を縦に並べられて、それを横に三枚並べてある板に固定されている梱包箱の蓋になるものが三枚と、その上には蓋より小さめの同じように縦に並べられた板を横に三枚並べられた板で固定された物、その上には同じ厚さではあるが一枚の木で作られた板が重ねられていた。
森の木は大きく育てる為に間伐される木があり、箱に使うような物には間伐材を使ってコストを下げる。
アイカユラは、固定の為に加工が必要な板は間伐材を使った数枚の板で組んである物ではなく、一枚の木から作られた板を用意していた。
広い板となれば、間伐材のような細い木材ではなく、太く育った木を使う事になり割高となるが、加工がやり易く輸送中に壊れてしまわない事を優先した。
持ってきた台車の上の板をエルメアーナは確認するとウンウンと頷いた。
「なる程、これなら加工して使えそうだが、スペーサーが必要になるのか」
そう言って、梱包箱に入っているパーツを見た。
「一番上の板が揺れ防止用にとなれば、丁度中間辺りに置きたい。それに隙間を考えれば、下にもスペーサーを入れて」
そう言うと、工房の角の方に置いてある箱を見た。
「スペーサーは、今の在庫で足りそうだな、後は、板を浮かせる柱を用意する」
少し考えるとアイカユラを見た。
「すまないが、裏庭に試し斬り用の棒が有ったから、この位の太さの物を見つけて持ってきてくれ」
エルメアーナは、人差し指と親指で5センチ程の長さを示した。
「あと、長さは、10センチ程度の物を四隅に、外装骨格の固定用の板を浮かせる為に4本? いや、6本かな。中蓋にも6本だから、一箱に12本、三箱で36本になる。ジュネス達が剣の試し斬り用に購入しているから有るはずだ」
「分かったわ」
返事をするとアイカユラは工房を出て行った。
「ヒェル。ちょっと手伝ってくれ」
そう言うとエルメアーナは工房の角の棚に置かれている木箱を引っ張り出して中を確認した。
その中に麻袋で出来た小さな枕のような物が入っていた。
「これは小さいタイプだったか」
そう言うと上の段の木箱を引っ張り出して、今の箱の横に置いた。
中には、先程の四倍の大きさの麻袋で出来た枕に似た物が入っていた。
「袋の中に乾燥させた草を入れたスペーサーね」
「ああ、これを横から押し込んでおく、荷物の発送なんて、殆どなかったから思いつかなかった。これ、箱の中にパーツを入れる前に入れておけば良かった」
「それも、そうね」
ヒュェルリーンは、ジュエルイアンの秘書なので、発送の指示はしても箱詰めをする事は無い。
エルメアーナも作った物を店で売る事から、荷物を発送する事は無い。
アイカユラにしても、店番とエルメアーナの面倒を見るだけだったが、梱包箱の手配をするにとどまっており、三人とも輸送については素人同然だった。
梱包箱に入れてみて初めて揺れた時の事に気がついたのだ。
「この箱の中身は知っていたが、こんな時のためだったんだ」
エルメアーナが感心するように言う。
「ああ、そうだったわね。この店を手配する時、商会の者に準備させたのよね。鍛冶屋に必要な物は全て整えるように指示してたから、梱包用のスペーサーも用意してくれてたのね」
ヒュェルリーンは、納得するように言った。
「この大きい方を下に敷いておきたいから、ちょっと手伝ってくれ」
そう言うと大きな枕のようなスペーサーを両手一杯に持つと、ヒュェルリーンも、それに倣って両手一杯にスペーサーを持つと梱包箱の所に持っていく。
エルメアーナが梱包箱の脇にスペーサーを置くとヒュェルリーンも隣に置いた。
エルメアーナは、スペーサーを一つ持って腕が入っている梱包箱の横に行くと外装骨格の腕の下に入れようとした。
「すまないが、この腕を少し持ち上げてもらえないか」
ヒュェルリーンは、言われるがまま梱包箱の横に行って腕の肩側を軽く持ち上げてくれたので、その下にスペーサーを滑り込ませた。
もう一つスペーサーを手に取ると、今度は腕の方に入れようとしたので、ヒュェルリーンは反対側に回って腕側を持ち上げてくれた隙間に滑り込ませる。
もう一方の腕も同じようにスペーサーを入れると、腕と腕の間と腕と箱の間に入れたが、スペーサーの高さは、高い部分が腕の高さの半分を超える程度だったが、エルメアーナは満足そうな表情をすると、アイカユラの持ってきた台車の上の板を手に取った。
「うーん、腕に沿って穴を開けるのか」
そう呟くと持った板を梱包箱に持っていくと、片腕だけが見えるように箱の淵に置いた。
「ヒェル。このまま持っていてくれないか」
ヒュェルリーンは、言われるがままエルメアーナに代わって板を持ってもらうと、縦方向から梱包箱を見下ろした。
「腕と腕の間も箱の壁との間も、こんなもんだからな」
そう言うと、今度は、横に移動して肩の位置と腕の位置を確認すると、腕と板を交互に確認した。
「横はこんなもんかな」
そして、ヒュェルリーンが押さえている板に印を付けていった。
「ヒェル。反対側に移動してくれ」
ヒュェルリーンが押さえていた板を手に取って促されるので言われるがまま移動すると、今度は反対側の淵に板を移動させた押さえているようにと板を指し示すので、また、板を押さえた。
同じように中にある外装骨格の腕を見ながら印を付けると、今度は、印を目安に線を引き始めた。
その線は、外装骨格の外側をなぞるように描かれた。
「ねえ、寸法を測る必要はないの?」
「ああ、この板と外装骨格の隙間は、あのスペーサーを入れるつもりだから、隙間は大雑把で構わない」
その答えを聞いてヒュェルリーンは納得した。
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