第39話 パワードスーツの分解 8


 ヒュェルリーンに説明を終えたエルメアーナは、胴体だけになった外装骨格を背中からぶら下げている建具の後ろに移動した。

「ヒェル、今から下ろしていくから腰が箱の底に付いたら手前に引っ張ってくれ。胸の後ろが箱の淵に掛かったら建具から外して箱に滑り込ませるようにする。それまでは簡単だ」

「分かったわ。でも、さっき、胸の下を固定するようにしているけど、腰を手前に引いたら滑り落ちてしまわないの?」

「それも問題無い。建具の上、ほら、これは頭が無いから、その後ろが見えているだろ、あそこに蝶番が付いているから、腰を手前に引っ張ったら胴体と固定部品が一緒に手前に連動して動くようになっている。まあ、外装骨格を固定している部品と後ろの柱を動く部品のストッパーを外す必要があるけどな」

 そう言うと背中の固定板と建具のストッパーを外す。

「しかし、そんな建具まで気を使って考えたわね」

 感心するヒュェルリーンの言葉を聞いたエルメアーナは顔を綻ばせた。

「ヒェル。この建具の高さ調整はジュネスが考えた事なんだが、下まで降りるようにと提案したのは」

 そこまで言うと右手の人差し指で自分を指した。

「あら、そうだったの。すごいわ」

 自分の提案が褒められた事で更に気を良くする。

「そうだろう。だって、完成して渡すのかと思っていたら、完成させたら分解して送るようにってなっただろう。5台全部完成させてシュレの収納魔法の中に入れるなら良かったんだ。でも、完成前に出発してしまったし、ここも人手が無くなってしまったからな。最悪、二人で梱包する事も考えていたから、この胴体だけは簡単に梱包できるようにと思ったんだ。ジュネスは、身長1.3メートルから1.8メートルに対応できるように考えていたけど、分解して発送するとなったら、私らだけで動かすと思ったら……。床まで下ろせるように設計しておいてもらったんだ。それを私がジュネスに頼んで追加してもらったんだ」

 エルメアーナは、自慢気にヒュェルリーンに説明すると、ヒュェルリーンは、頼もしそうに聞いていた。

「あら、そうだったの」

 少し強い口調のアイカユラの声が横からする。

「アイデアを出して、ジュネスが作ったのね。ジュネスが」

 今まで腕と脚を入れていた梱包箱を見ていたアイカユラが、二人の会話に入ってきた。

「建具もジュネスが作った」

 アイカユラがジューネスティーンの名前を強調するので、自分のアイデアにケチをつけられたというように表情を曇らせた。

「そうだよ。ジュネスが建具を作ってくれたんだ」

 珍しく、エルメアーナに突っ掛かるような言葉を掛けたアイカユラだった。

 その様子をヒュェルリーンは珍しそうに見ている。

「ここには、今、ヒェルが居るけど、残りの3台を完成させた後、また、同じように梱包するんだ。最悪、お前と二人で梱包するとなったら、楽な方が良いだろう。だから、ジュネスにお願いしたんだよ」

「あら、そう!」

 その説明を聞いてもアイカユラは面白くなさそうなまま答えたので、エルメアーナもイラッとしたようだ。

「なんだよ。今日は、ヒェルが居たからスムーズに梱包できたけど、脚を私と二人で箱に入れるなんて至難の業じゃないか。胴体なんて、二人じゃ持ち上げられないかもしれないんだぞ」

「そうね」

 更にそっけなく答えたので、エルメアーナは、顔を真っ赤にして喧嘩に発展する寸前になる。

「アイカ、アイデアが出ると言うのは、とても大事な事なのよ。ほら、先日の外装骨格について、あなたがアイデアを出してくれたでしょ。この建具についても、同じなのよ。あなた自身はアイデアは出せても外装骨格を作る事はできないわ。それと同じよ」

 二人が言い争いになりそうな所をヒュェルリーンが制した。

 言われて、以前提案した事を思い出すと、少し恥ずかしそうにする。

(そうよね。私のアイデアとしての外装骨格の量産化は、鍛治ができるわけでも錬成魔法が使えるわけでもない私には無理な事。私のアイデアを実現してくれるのはジュネスやシュレ、そして、エルメアーナだけなのよ。どんなに良いアイデアでも、それを作る技術が無ければ出来ないのよ)

 アイカユラは申し訳なさそうにエルメアーナを見た。

「ごめん、言い過ぎたわ」

「いや、大事ない」

 エルメアーナは、答えると作業の為に建具を確認する。

(ヒュェルリーンの言う通りなのよね。なんで、あんな事を言っちゃったのかしら?)

 アイカユラは、視線をエルメアーナからヒュェルリーンに向けると目が合った。

 ヒュェルリーンは、慈愛に満ちたような笑みを浮かべていた。

 それを見たアイカユラは、恥ずかしそうにした。

(ん? ひょっとして、二人が楽しそうに話していた事に嫉妬していた?)

 慌てて、両手を頬に当てると顔を背けた。

(いやいや、何でなの? 二人は昔からの知り合いらしいし、エルフと人ではあるけど、母娘のような感じだった。その仲の良さに嫉妬していたのかも)

 すると、アイカユラの両肩に手が置かれた。

「なんでも無い事で喧嘩して、直ぐに仲直りして、なんだか、二人は仲の良い姉妹のようだわ。私にも、二人のような子供が出来れば良いのだけど」

 ヒュェルリーンの言葉を聞いてアイカユラは真っ赤な顔になった。

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