「と、とこ……晴を取られてしまったぞ……」

「残念だけど仕方がないね。別に幼馴染同士で必ずくっつくってわけではないけど本気を出されたら勝てないようになっているんだよ」

　舞は厳しかった。

　でも、振られていない状態で一番最初に好きになった子が意識を向けてくれたら影響力は他の誰かからアピールをされるよりもすごいと思う。

「うぅ、とこ……舞が厳しいんだけど」

「なにかをすることで発散させるしかないかな、すぐには無理でも多少は楽になれるようにね」

「そうだよな……」

「私を抱きしめてもいいわよ？」

「京子！」

　起きたと思ったらすぐにこれだった。

　京子先輩は関われている女の子なら誰でもいいように見えてきてしまう。

「というかさ、晴が無理になった途端にとこのところに戻ってくるって微妙じゃない？」

「う……」

「気にしなくていいよ、いかなければならないなんてルールはないんだからね」

「ありがとなあ」

　しっかり止めるようにしないと。

　考えて言ってくれているのはわかるけどそれで責められるようになったら嫌だから。

　あとは私よりも友達同士で言い合いをしているところを見たくないのもあった。

　こちらのことは放置していいから二人とか三人で楽しく過ごしてもらいたいところだ。

「仕方がないからここを貸してあげる。ね、ここいいでしょ？」

「ん－夏美ならいいかなー」

　そして舞の言うことをよく聞くようになっているここだけどいくかどうか聞いても「いくわけないでしょ」と冷たい顔で言われるのが常のことだった。

「よし、じゃあ夏美はここと一緒に過ごして癒されなさい。私と京子ととこは別行動よ」

「京子先輩の真似をするようにしたの？」

「こういうときはこっちの方がいいだけだよ、いくよ」

　それでも特に決まってはいなかったのか学校から離れてすぐのところで足を止めた。

　こちらを見たときの顔は何故か物凄く微妙そうなそれ、流石に気づいて空気を読むために離れようとしたところでがしっと手を掴まれて無理になった。

「や、物凄く怖くなったんだよ、晴もあれだけ夏美といておいて結局それなのってね……」

「確かにわかるわ、勘違いされないためにも衣子にアピールをするべきだったわよね」

「やっぱり舞と京子先輩、いいね」

「「どういうこと？」」

　これは失敗をしたかもしれない。

　仮にそういう気持ちがあったとしても本人がいる前で認められる人は少ない。

　あと自分の影響力がそこまでではないにしてもその結果ですれ違いみたいになったら駄目だろう。

「え、なにかがあっても崩れないような状態になったからこそ私のところにまた来てくれるようになったんだよね？」

「私と舞の中にそういうのはないわよ？」

「そうだよ、もしあるなら京子との時間をもっと増やしているでしょ」

「別に隠さなくていいのに」

　葵さんが一人残ることになってしまうけど気にしていたら恋なんてできない。

　

「ま、この話はここで終わらせるとして、お金もあんまり使いたくないからどうしよっか？」

「それならあなたの正直なところを聞きたいわね」

「終わりだって言ったでしょー？」

「勝手に終わらせようとしても無駄よ、その答え次第ではお姉さんとして協力してあげるわ」

　この話を続けるにしてもせめてどこかで座ってからにしたかった。

　ここもいないから二人を見たり違うところを見て過ごしていなければならないわけで、それにも限界がくるから座りたいのだ。

「ぷふ、京子はお姉さんって感じがしないんだよね、よくて同級生かなって感じ」

「あら、いいじゃない。一人だけ年上だと寂しくなるときもあるのよね」

「なんかいまの言い方だといやらしいね」

「それよりどうなの？」

　大事なところでは絶対に逸らさせないようにしている。

　ここまで吐かせたがるのはどういう感情からきているのか。

　決めつけが嫌いだったはずなのに決めつけたくなる、いま正直なところを吐いてほしいのは京子先輩の方だ。

「とこのことは気になるから一緒にいたくなるかな」

「恋愛的な意味じゃないの？」

「はは、わからない。私、これまで一度も恋をしたことがないから自分のことでもね」

　私もわからないから一緒に勉強していくことができそうだ。

「『そんな訳がないでしょ！』みたいに強く否定するわけじゃないのね」

「それは、うん」

　というかいつの間にかメインが私になってきてしまっているのは何故なのか。

「とこちゃん的に舞はどうなの？」

「私的には一番喋りやすい子で優しいし気にかけてくれるから一緒にいたいですよ」

「とこちゃんは強いわね」

　それでもこの質問に対してはこう答えるしかないから濁したりはしない。

　もうここで終わらせてくれないだろうか？　このままだと自分から真っすぐに切り出すのが怖くて二人の関係について言及したように見えてしまう。

「一番喋りやすいの夏美かと思っていたけど違うんだ？」

「うん」

「うわ……なにこれ、やっぱりこの話は終わり！」

　今度は嫌そうな顔だ、それは気になるけど終わらせてくれたのはありがたい。

「そうね、お店にでも移動しましょうか、誰かのせいで暑くなってしまったわ」

「京子のせいでしょ！　罰としてジュースぐらい奢ってよね！」

「いいわよ。さ、とこちゃんもいきましょ？」

「はい」

　店内ならもっと距離が近くなって盛り上がれる二人を見られる。

　メインになってしまわないようにジュースを飲むことに専念したかった。

「舞ってずるいわよね、あんなに可愛らしい笑顔を急に見せてくるんだもの」

「へにゃりとしていました」

「とこちゃん、あなたにだって効果がありそうなそんな笑顔だわ」

　確かに可愛らしかったけどいまそのことは重要ではない。

　何故か二人きりで過ごすことは本人が避けてきたことによって無理だったけど舞に協力をしてもらったことで上手くいった。

「いま舞はいないので京子先輩の話をしてください」

「私の話？　本当に興味があるの？」

「はい」

　答えてくれないかな、それとも面倒くさいから全て吐いておくことで付きまとわれないようにしようとする可能性もあるのかな。

「あのときも言ったように舞のことを特別な意味で好きというわけじゃないわ」

「はい」

「でも、全部話したわけじゃなかったのも本当のことよ」

「すみませんでした、私も考えてから発言するべきでした」

　あってもなくても聞くべきではなかった。

　だからその後の私に対するあれは故意であったとしても京子先輩が悪いわけではない。

「なんに対しての謝罪？」

「いえ。それでその全部は無理でも他に言えることはありますか？」

「あるわ、それはあのとき舞に聞いたようにとこちゃんへの気持ちよ」

　私への気持ちと言われてもすぐに付いてはいけなかった。

　でも、物凄く真剣な顔をしているから待っていようと思う。

「ただの自爆で馬鹿でしかなかったけどみんなのところにいけなくなってしまったことを気にしていたの。いけばいいのにごちゃごちゃ考えて殻に閉じこもっていたアホでもあるわ。だから私ね、本当にあなたに感謝しているのよ？　あのときは関係のないこの子を巻き込んでなにをやっているのかって焦っただけだけどいってみたら本当になんてことはなかったから。舞があなたに頼んだのも嬉しかった、少しは必要とされているみたいだったからね」

「それぐらい京子先輩のいない生活は嫌だったんですよ」

「舞とは前よりも一緒に過ごしやすくなったわ、だから全てが悪いわけではないのよね。もちろん、もう二度と同じようにはしたくないけれど」

「わかりました、やっぱり舞がいなければ意味がありませんね。連絡先交換はまだなので京子先輩がお願いします」

「あなたがそう言うなら呼ぶわ」

　さっき空気を読んで離れてくれたところなのに申し訳ない。

　一週間の約束のときから迷惑をかけてばかりだ。

「せっかく離れたのになんなの？」

「あまりに舞ガチ勢だったから本人に来てもらったの」

「はは、なにそれ」

　いや、短い間の時間で謝ったばかりなのに申し訳ないけど私は必要ないと思ったのだ。

　それに逃げられないことと一ミリでも本当のところを知られればそれでよかった私的に満足できてしまったのもある。

　だからあとは本当に過ごしたい相手といてくれればいい。

「もう一度言うけどとこちゃんには本当に感謝しているわ、それと優しくできるあなたに人を好きになってもらいたと思っていたの。それでね、その相手として舞が相応しいんじゃないかって最近は二人を見る度に考えてしまうの。一緒にいたいって言っていたし……あなたにとっても悪くないわよね？」

「でも、舞にその気がなければ駄目ですよ。確かに好きになったときの自分には興味がありますけどそのために他の誰かが犠牲になるのは違いますから」

　唐突だけど彼女達と関われたのは大きかった。

　何歳まで生きられるかはわからないから五十歳まで生きられるとして、その場合はまだ半分以上も残っているのだからいつかはチャンスがあるだろう。

「舞も気にしなくていいからね？」

「犠牲ってどういうこと？」

「え、そのままだよ。私に得なことがあっても他の子にとってはそうでもないときだってあるでしょ？　いまだってそうだよ、私はみんなが来てくれて嬉しいけど構ってあげないといけないようになって面倒だと感じるときもある気がしてね」

　あれ、こんなことを言うつもりはなかったのに。

「ごめん、なんか私らしくないや」

「や、なにその発言、急に謝られても自分らしくないって言われても困るんだけど」

「うん、だから二人で話して」

　縮まることもせずに少し離れたところでぼうっとしておけばいい。

　いまは喋ることになればなるほど駄目になりそうだったから。