君とアルコール数年間
月見トモ
第1話 桜と共に
散り散りと、舞うのは桜でもない。
アルコール消毒液に溺れた数年間と
それが作った言葉の壁と
机に置かれたあの子の花束と
普遍的な人生を歩む毎日と
君の匂いに化かされ
春を祝えなくなった僕が舞ったのだ。
春、ふわりと駆け上がる階段の先で
待っていたのは君の背中。
夏、さざ波に僕の恋心を無下にされた
蒸し暑い放課後の憂鬱。
秋、晴れ晴れとした青空に君の影の幻覚。
冬、悴んだ指先で描いた未来に
君が居ない現実から逃避した。
消毒液の海に溺れた数年間
美しい君の細胞さえも消毒液で消滅した。
君が、消滅した。
桜、桜、桜、桜に願おう。
祈っても散るならばきっとそれがいい。
消毒を大切にと言葉を聴く度に
やはりあの頃を思い出して
嗅覚異常が起こったみたいに
ツンとアルコールの匂いがする。
君と手を繋ぎたくて
毎回綺麗に水に流していた僕の体温。
君と手を繋いだ翌日まで
洗い落とせなかった君の体温。
あの頃、僕は確かに君を愛していた。
しかし、愛がどんなものなのか
どんな形をしていて、
どんな肌触りで、
どんな匂いなのかもう忘れてしまった。
あの頃、何もかも消滅した。
君と心の距離は未だ埋まらない。
君の最後さえ僕はまだ知らない。
君の冷たい墓石に
僕の緩い手を置いてみる。
君に体温が奪われるように
あの頃と同じようにやがて飽和する。
「桜井、逢いに来たよ」
なぁ、
今度は君と泳ぎたいんだ。
「お互いに、成人おめでとう」
飲める方のアルコールの海を。
「桜井、あのさ」
君と語り合いたいんだ。
「桜井、」
あの頃の話せなかった君への想い。
「「」」
僕のアルコール数年間を。
君とアルコール数年間 月見トモ @to_mo_00
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