第31話 女神エンジン⑨
第九話 【ポイント稼ぎ】
ステータスをこまめに見る。
それが重要だと女神に言われた。
誰かに親切などのアクションをしたら状況の進展があり、新たなワードが記されているかもしれない。
女神のいってくれたことには、深い意味があるのだ。
本のページをめくるように、進展はないのかと注意深くみる必要がある。
そこで少し、異世界ゲームの考察をざっくりとしていく。
見当違いがあっても、想定しておくことで次に繋げる課題にはなるはずだ。
失敗人生ばかりは、もう御免だ。
ポイントや、つぎのレベルに関しても女神は語ってくれていない。
もしかしたら、ケースバイケースで俺が起こす行動によっては別のワードが先に現れていたのかもしれないのだ。
仮に──。
人助けを念頭に置きながら、3日経ってもそれに至らなければ、ポイントの入手がないため、その情報は載らない。ならば、つぎのレベルに関しても表示されなかった可能性は充分にある。
だがポイント入手の方法は、4種の貢献にある。
人助けという厄介事をしょい込む、いわゆる任務を受けること。
もう一度確認しておく。
『①クエスト受注:+005pt
②傷の手当:+020pt
③対象者の保護:+020pt
④敵の討伐:+100pt (ゴロツキ10人撃退)
①請け負う勇気に貢献
②回復に貢献
③救助に貢献
④戦闘に貢献』
受注だけで+5pt、なのだが。受注が①の請け負う勇気に対応している貢献だ。
それぞれの番号に各貢献の種類があるのがわかる。
だが着目しているのは任務として受注していなくても、②と④は普通にできる。
②は、俺が薬屋だから、売り歩くことで代金も入手しつつ、誰かの傷も回復させることになるはずだ。
親切心で奉仕だけをしていたら、損をするのがわかる。
検証は必要だろうけど。
そして④は、危害を加える輩を退けることのようだ。
もちろん自分に対しても、のはずだから。
この項目でのpt稼ぎは自己を守る意味だけでも、戦えば入手できると考える。
実践で確認していこうと思う。
③の救助は、上記では保護となっている。
おそらく、貢献にはさまざまなケースがあるのだろう。
分記していることにも意味があるはず。
④の戦闘もゴロツキでない場合はptが変わるはずだ。
貢献にこそ難易度があるんだ。
敵が剣士ならどうだ?もっとptは高くなるだろう。さらに難敵なのだから。
そして①だ。
これがもっとも重要な項目じゃないかな。
一見すると、入手pt自体は少ないが。
今回は、駒次郎という人物との出会いに繋がったわけだ。
一時的に庇うことでも、その後も連れ添うなら結局受注となるが。
しかし連れ添わないなら、すれ違い程度にとどまり、出会いにならない。
行きずりで、無関係だと感謝が一時の感情にとどまり、ptも少ないのかもしれない。
そう思うのは、女神が推していた出会い系がこれに当たるのではないかと。
人との出会い。
そこにあるメリット、案内や紹介で時間の短縮が得られる。
街の情報が手に入る。人と人の関連性が見えてくるなどだ。
貢献というステータス項目しか進展がない。情報は詳細ではない。
おそらく詳細は、実践での検証で進展し、更新されていくのだろう。
といった考察から導き出せることがあるかもしれないので、駒次郎に恩着せがましいけど、宿をともにして、うまい飯を食わせ、風呂までいれた。
そこに悦びと充実が生まれて、幸福度のようなものに繋がってからの感謝は、気持ちが倍増しているのではないかと思い、じつはこれも検証の一環だったのだ。
はてさて、ステータス更新はどうなったかな。
それでは、「ステータスオープン!」
ピピッ!
ステータスに更新あり。
「おお、きたか!」
☆駒次郎と命の洗濯
入浴:心身疲労の解放=回復に貢献
ポイント加算 +0020pt +0020pt(2人分)
食事:空腹からの解放=回復に貢献
ポイント加算 +0020pt +0020pt(2人分)
宿泊:労苦からの解放=回復に貢献
ポイント加算 +0020pt +0020pt(2人分)
合計:+0120pt
前回取得分:0145pt
累計:+0265pt
備考:つぎのレベルまで1000pt 未納(残り0735pt)
ツナセ宿場 アヒルノ旅籠到着まで60分経過。
PLAY TIME 01:00:00
食事、入浴後のPLAY TIME 01:40:00
「おお、なんと! 回復の貢献だったか。それも2人分だ。やっぱり、1000ptにならないとシステムが未納扱いをしている。達成すれば納入されるのかな。まあこれらには金を使うわけだけど、戦闘に比べたらだれも傷つけず、俺も楽だし」
食事だけ3回として、宿泊、入浴が2泊で2回。2人分。
食う、寝る、風呂。合わせて+400pt そのうち、すでに貰った120差し引いてあと280。ここに居るだけで得られるということだ。
ゴロツキどもを狩りつづけるか。
3日間で身請け金を貯めきるのは大変そうだし。
3日後におさらばするのだし、解決までする必要はないよな。
時間の経過もしっかりとカウントしてくれている。
どれぐらい過ごしたのか、時計がないから不安だったんだ。助かる。
時計がないから、何時何分かはわからないが、皆に合わせておけばいいだろう。
◇
風呂から上がってさっぱりした。
俺は再び、畳のうえで寝転んだ。
彼には「眠気がさした」と伝えた。
あと、遠出をせずにその辺にいるんだよ、と釘もさしておいた。
ゴロンと寝返りを打つように、肘枕をして目を閉じた。
駒次郎は連れて行かれた彼女のことをただの幼馴染というが。
本当に、恋愛感情は持っていないのだろうか。
それとも、まだ人を本気で好きになった経験がなくて目覚めていないだけか。
そういう人も世の中には割といるし、べつに良いけど。
この時代、近隣の幼馴染って家族同然かもしれないが。
あくまでも他家の事情だ。
恋愛感情抜きで、ゴロツキの巣窟へ殴りこんでまで取り戻そうとするか。
問題が貧困にあるのは承知のはずだ。
行って何ができるというのだ。
話し合いか。
借金をしたその形だろ。
耳を揃えて完済しなければ、決して解決のない世界のはずだ。
だれが助けてくれる訳でもないのだから。
ねずみ小僧みたいなのも現われなくて、こうなったんだろうからな。
その悔しい気持ちは分からないでもないけど。
世間知らずもいいとこだな。
だが今回のことで世間の厳しさを知ったことだろう。
となれば、さて駒次郎は金策をどうするのだろう。
◇
横になって色々と考えてみた。
このままゴロゴロしながら考えこまねいていても仕方がない。
10分も経ってないが駒次郎を部屋に呼び寄せた。
ちゃぶ台を前にすると、お茶でもどうぞと言い湯呑を差し向ける駒次郎。
「コマさん、金策の
それしか話題がないから、それを訪ねる。
こんな出会いじゃなければ何を話していただろう。
いまは困っていない者には用はないのだが。
ふと悲しい気持ちにもなる。なんだか人の不幸を歓迎しているようで。
「……はい。お里の家の借金が十両。金貸しのヤクザが女郎屋に十五両で売り飛ばしたんです。おまけにお里は上玉と評判で、五倍買いでなら引き取らせると。取り戻すのにとんでもない大金が必要になりました」
十五両の五倍だから七十五両か、そりゃ大金だな。
「金貸しの借金は、お里ちゃんを渡したからチャラになったはずだから、あとは身請け金の七十五両だけだな。ところで、なんでヤクザと揉めてたんだ?」
女郎屋とグルだったとしても不思議ではないんだが。
揉める理由はなんだ?
金のない者など門前払いだろ。
金の亡者どもが相手にするのは、美女と金と酒ぐらいではないか。
「金を借りようとしたんだ。身請けの額だけ」
それ担保なしでは普通の良心的な金貸しでも無理があるぞ。
返済の当てがない上に、手持ちの店とか土地とか。差し押さえるものもない。
ヤクザ金融になにを頼んだんだ。
「担保になるものが何もないんでしょ? それにコマさんは男だし」
「ああ、女は体を売れるけど、男じゃねえ。それで炭鉱夫でもなんでもすると言ったら、山に連れていかれて、ひと月も閉じ込められたよ」
そりゃ、そうなるだろな。
「まあ給金は雀の涙で、飯もろくに食えなくてヘトヘトになったことだろう」
「うん」
駒次郎は思い返すように辛辣な表情を浮かべる。
「山に行くとなれば、同意の上だから。まともな契約じゃないよね」
「……うん」
さぞや弱みに付け込んだ酷い契約なのだろう。
言葉にできないほど、痛々しい顔をみせる。
「一生そこから出してもらえない不安と恐怖を味わったんだね」
「……」
駒次郎は言葉を飲み込んでしまった。
うつむいたままだが、肩を震わせている。
込み上げる涙を隠しているようだ。
かける言葉が見当たらないが、同情しすぎてはいけない。
これは他人ごと、他人ごと。
「さあ温かいものでも飲んで、すこし落ち着こうか」
目の前のお茶をすすめた。
彼が俺のために淹れてくれたものだ。
手に取り、ひとくち、ふたくち喉に通すと「はあっ」と息を吐く。
体が温まったのか、蒼い顔がじわじわと赤みを取り戻した。
「けど、よく逃げ出してこれたね」
彼は小さく頷いた。
そして恐々と口を開いた。
「それが……見張りの大男に若い男好きがいて、すこし休ませてやるからと」
は?
「確かに下っ端はこき使われすぎて自由がない。中には子供好きがいても不思議じゃないが。それは運がよかったな」
相手が気を許した隙に脱出を図ったのだな。
「大男はおれに逃げられるとは思わずに、失態を親方に知られて激怒してたよ」
そこから一目散に逃げだしてきたわけだ。
「最後は、やつらに見つかりはしたけど夢中で振り払って走っていたら、ツナセ街道に出ていたんだ。追いつかれて捕まったら殺されるとさえ感じていた所に、グンが立ち止まっていてぶつかってしまったんだ」
勢いよくぶつかったことに照れながら、駒次郎は改めて頭を下げる。
立ち止まっていたのは、その様子を窺っていたからだけど。
幼友達のために随分と苦労をしたんだな。
一見、無茶だけど誰かの為にそこまでの犠牲を払おうなんて、ぜったい惚れてなければできないよな。
ここまでで明確になったことが一つある。
この時代の庶民の苦しみの大半は貧困だ。
このジョブを選択すると人助けが必須事項になるから。
金策も必須事項になる。
ゲームってやつは基本は金策なのかもしれないね。
現実世界となんら変わらないね。
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