第28話 女神エンジン⑥



 第六話 【冒険の準備】



 

 今回のゲームのルールおさらい──【女神エンジン】。



 ピピピッ──!



「おや。追加でパート2のような解説が加えられたぞ」



 ◇



 今回のゲームルールまとめ。



 まず、持ち込む【アイテム】を選択。(道具)


 次に、【ジョブチェンジ】を選択。(職)

 

 祠から出ると、外へ出た瞬間72時間カウントダウン開始。



 ここで女神とはお別れ。

 女神は72時間後にも現れる。終了の告知のとき。

 一回のゲームが終了するまでに「アウト」のカウントがなければ、

 合格。スキルをひとつ獲得。





「うんまあ、さっきも見たけど。詳細になってる。ここを出た瞬間からか」





 基本死んではならない。

 3日生き残ることが前提。

 人を傷つけても、殺してはいけない。


 忍者は人助けを1回以上行う。(必須)


 大きな人助けにつなげ高得点を狙え。

 人々の笑顔と感謝をどれだけ得るかがポイント。





「死んではならないか。殺してもいけない……。

 そんな過激なシーンに出ることもあるのか。

 でも忍者だし。勢いあまって。いや弱きをくじく奴のパターンだろ、それ」



 大人は文字読みを活かし、金を稼ぐこと。

 金額に応じて良いスキルに昇格。


 子供は生き延びるだけでいい。

 ノルマがなにもない。

 ただ、大名行列には要注意。

 他の子供の粗相でも連帯で無礼討ち。



「いやもう俺、忍者でいくし。出会う人たちにありがとうを言わせればいいだけだろ。そのポイント稼ぎということね。大人は面倒くさいな。子供は気楽そうだけど、大名行列のあるあるが流石にヤバいな」




 この他に、おまけとして。

 元の時代に存在していたものをひとつだけ持ち込める。

 グンの時代にあったものならなんでもあり。

 懐中電灯や時計、爆竹でも。所持アイテムはずっと使え、無くならない。




「え、まじか。さっきの説明で一気に表示されていたら混乱してたな俺。だから、小分けにして説明が加えられたのか。爆竹無くならないとか、すごくない? それじゃ、きっと時計やライトの電池も減らないんだろうな。無人島へ行くなら的なやつか。これは心強いな」




 持ち込んだモノは見つかってはならない。

 見つかると【鬼判定・討伐】の状態に遭い、死。相手は無数の侍(要注意)




「なるほど。俺も不審者扱いってわけか。江戸時代にないもの持ってりゃ、そうなるな。もし見つかっても無くならないという部分が有効なら、ものによっては切り抜けられないか?」


 


 72時間以内の女神との出会い。

 女神に逢えると、その時点でスキルをひとつ確実に付与される。

 【女神エンジン】を通して女神に申請が可能。


 出会い系クエストに挑戦し、達成で女神がスキルをくれる。




「やたらとこれを推すなぁ。どうせなら俺は旅を楽しみたい。人助けで稼いで、死なない方向でいきたいな。でもクエストをこなせば、完了後には獲得スキルはふたつなのか……アウトになれば祠から仕切り直しだよな。つーことは、ゲーム自体何度も挑戦できるわけだから。最初はぼちぼち行きたいな」




 ◇




「あの、モノを持ち込めるの?」


『ひとつだけなら、どんなものでもね。乗り物はグンが運転できなければダメ。なにか希望はある?』



 おお、マジか!

 そんなもん、ダントツでUFOに決まってんだろ!


 忍者とUFOは買いだもん。


 マッハ400の銀河系、銀河中心から飛来してきたのをひとつください。





 ◇




  

 よだれと震えが止まらないぜ。

 失禁しそうだぜ。


 忍者とUFOを買えるときが来るとはな。



「UFO、ひとつください!」


『とびっきりの笑顔で言っておるが、相当のお気に入りか?』


「夢のマシン、男のロマンです!」


『ならば【女神エンジン】で呼び出せ。名称を言い、エンジンする。やってみろ』


「え、こっから出てくんの? マジ、イカスぜ!」



 いったいどういう代物なのかわからないが、打ち出の小づちみたいだな。



 UFO──【女神エンジン】。

 ピピッ──ピピピ──ピピッ……。




「おい、30秒は経ったぞ。まだか?」無論、ひとりごとではあるが。


『おかしいな。いつもなら1秒で出現するのだが……本当に実在しているのか、それ? 絵本に出て来るような創造物ではないだろうな。一体どのようなものだ』


「えっと……ばかっ速い飛行物体だけど。大抵の地球人は知ってるんだけどな」



 この女神、UFOの存在すら知らないのかよ。

 まじ天然。どこの馬の骨だよ。


 あ、神様か。



『その【女神エンジン】は《検索》と《調達》と《貯蔵》が可能な夢のマシンなんだが。どれ──検索が済んだのなら私が見てやろう』



 女神はそういって、また右手を例の如く俺の方にかざしてきた。



 このところずっと優しいなぁ。「お熱を測りましょ」って感じに笑顔だし。

 保健室の美人先生のようだ。仮病をつかって男子が通い詰めるタイプだ。

 怒らなけれの話だけどな。

 



 おい、また30秒は経過したぞ。



 あれ、女神。

 居眠りしてる場合じゃねぇぞ。



 あ、目を開けた!

 


 きっと故障だったんだな?

 バツが悪いもんだから、天に祈りでも捧げるフリをしちゃって。

 可愛いとこ、あるじゃん。



『こんの、アホたれがぁぁぁあああああ────ァァ!!!』


「あ、あ、阿修羅ぁぁぁあああああッ! なんで、なんで怒ってんのぉ?」



 阿修羅か仁王のような形相で怒鳴られたもんで、後ろに転んでしまった。

 痛い! 

 背中打ったやん。


 うえ~ん。

 物凄い形相で睨みつけている。

 怖い、怖いよう。


 いっそ優しくするのやめたらどうですか?

 無理して性に合わないことをすると返ってストレスを溜めるから。

 背伸びして、つった足の痛みを人のせいにするようなら。



 ◇



 ……えっと。


 よく話を聞けば、あるかないか解らないモノはノーカウント。

 そういえば、そんな風に言ってたかもだけど、テンション爆上がりだったもので。

 お許しを──!


 そんなこんなで、もっと実用性のあるモノを選び直すことになった。



「俺のせいじゃない……」



 ──とも言い切れん。

 女神と【女神エンジン】を過大評価しすぎた、俺のミスなのかな。






 ステータス追伸。



 【女神エンジン】では検索、調達、貯蔵が可能。


  UFOは入手不可。

  

  名前・グン。

  性別・男。

  年齢・14歳。


  ジョブ・忍者。

  ゲームフィールド・江戸時代。

  スキル・現在なし。




 ◇




 

 突然死──そこに何があったんだろう。

 女神は俺の死の現場を見ていたんだろうか。

 状況ぐらい説明してくれないかな。

 けど説明受けて俺は納得できるのかな。


 できないだろうな。


 事故死だろうと病死だろうともしくは他殺の線はないか。

 ははは。

 知れたところでやり返すすべもないというのに。


 どれぐらいの時間経過があったのか。

 とにかく死んだ、それは間違いなく。


 もう振り返ろうとか思わない。

 思えないんだ。

 家を恋しんだって戻れないし。

 泣いたって、わめいたって現状は変わらない。

 考えようとすると力が抜けていくんだ。不思議だ。



 振り向こうとすると涙が出る寸前の、あの目の奥にジンとくる切ない感じがする。



 死なんて、あっさりと受け容れられる年齢じゃない。

 未練はあるよ。たくさんあるよ。とても悔しい。

 きっと今頃、町のやつらは笑ってるんだろうな。

 変人消えてくれて清々するとか。


 振り返るわけじゃない。

 最後だから、冥土の土産ってやつを頂いていこうかと。



 俺が街の奴らに受けてきた状況──【女神エンジン】。

 


 知りたいことが分かるんだろ、これ。映像でもいいんだった?

 俺をどんな風に見ていて、お前らは何を感じていたんだ。

 俺の目に映っていたお前たちよ、何かを語れ。



 ピピ!

 検索完了。



 いじめ。差別。偏見。マウントによるドミネーション(支配)

 格差の見せつけ。ペット化。嫉妬。



 その手のケースに見受けられる症例から、ADHD or 自閉症。可能性低め。

 対人緊張の類と見受けられる。将来的に双極性障害へ移行…可能性あり。



「う~ん。よくわからんけど、精神疾患なのかな。親が一番認めないやつだ」



 さぞ、とろくて苛立ってたんだろうな。

 薄々とは感じていたけど。

 こればかりは自分ではどうにもできない悩みだった。


 冥土の土産って、死の際で嫌な奴から屈辱的な真相を聞かされるやつだろ。

 これで心置きなく旅立てるわ。




 ◇




 俺の大好きなUFOが候補から消えた。

 次にと言われるなら印籠ぐらいだ。

 これは、模造品になるが。



 バレなきゃOKなんだろ。



 名前がこうだから、時代劇にハマッていたけど。

 さして詳しくもない。


 むしろ小難しい歴史なんて苦手だ。

 強い者は格好良くなれる、思いやりも持てる。

 人助けもしてやれる。


 そんな憧れが漠然とあった。

 けど俺にあんな強さ身に付くはずないし。


 せめて身分制度のあった徳川の印籠をひそかに抱いて、忍びに成り切って一人遊びをし、孤独を紛らわしていた哀れな身の上さ。



 遠足で覚えた道を頼りにひとりで行った映画村々。

 近くに土産物店があり、そこに40000円ほどで売っていた。

 貯めていたお年玉を使いにいったんだ。

 だれも知らない俺の宝物なんだ。


 うわぁ。


 今さらだけど、まじで取りに帰りたい。

 持って行ければ、心のお守りぐらいにはなるのになぁ。



 あ、そうだ!



 俺所有の三つ葉葵の印籠──【女神エンジン】。



 

 ピピ!

 検索中……現存確認あり。調達可能──転送します。




「お、俺の印籠だ。土産物だけど。これ洗っても剥げたりしないんだ。黒地に金色……なんて神々しいんだろう。うっとりしちゃう」


『なにかを手にしているな。持ち込むモノが決まったなら、早速出発しようか』


「忍者と印籠は不釣り合いだけど、買いだもん」



 見間違えるはずもない。

 俺の宝物が目の前にスーッと現れた。


 理屈なんてどうでもいいんだ。

 君だけは俺を裏切らないよな。


 身分の高いジョブなんか選べなかったんだし、見つからなきゃいいだけだ。


 死と眠りは似たような状態だといつか医者が言っていたな。

 これからいい夢だけを見に永遠の眠りに入るだけなんだ。




 葉っぱの印。


 幼い頃は呼び方も知らずに、そう呼んでいた。

 三つ葉葵……を見ると不思議と胸が躍るんだ。


 



 ◇





 俺が持ち込みアイテムを決めると、女神はなにも聞かず扉に手をかける。



『心の準備などと言っておれば、永遠にここから出れぬ』


 女神は逆光の祠の扉に手を掛けると、バッと勢いよく開いた。


「あぁ光が眩しい。そして涼風が心地いい」


 祠の外に出た。振り向くと、古めかしい、さびれた神社の祠だった。

 神社の祠なら、ここは山林の中かな。


 外から見た祠は小さなお堂のようで、観音開きの戸があった。

 すこし指で引っ張ってみたがビクともしない。


 女神の力で封じているんだろう。

 これで安心だな。

 ここが見つかったら、なんて案じる必要はないのだ。


 女神がおもむろに指さす。

 そして俺に言った。

 そこの道から、街道に出られる。進路は東だと

 街道を道なりに東へ行けば、宿場町へたどり着く。

 そこが今回のゲームフィールドとなる。


 人の足なら、30分ほどで到着する。

 忍者だから10分で到着できる。

 さらに女神はなにやら親切そうに伝えてきた。



『ゲームは基本、ノーヒントだが。伝えておくことがひとつ残っていた。グンのジョブは忍者だが、その状況確認をするための呪文を教えよう』


「じゅ……呪文。なんか怖そうだな」


『私のことばをなぞって唱えてみよ! ステータスオープン! と』


「はい。ス……ステータスオープンっ!」




 ◇


 ステータ・エンジンによる現状掌握。(ステータスの開示)




 ○名前・グン 

 ○性別・男 

 ○年齢・14歳

 ○ゲームフィールド・江戸時代


 ○ジョブ ・忍者  里に所属の少年忍者。


 ○体力  ・50  (旅人の大人40 子供20)

 ○攻撃力 ・20  (旅人の大人20 子供05)



「またこれか。何回見せりゃ気がすむんだよ。と思ったらなんか情報が増えとるやないか」



 ○装備武器・なし

 ○スキル ・現在異能力なし

 ○特技  ・忍術・いしつぶて命中率30 気配消しステルス率50 



「え、特技……ものを投げると3回に1回は命中する感じ? そんでもって気配まで消せるんか! やっぱ忍者は買いだったな」



 ○所持品 ・葵の印籠

 ○所持金 ・3両 任務支度金  

      (1両=4,000文【女神エンジン】で両替可)

       鰻丼120杯分相当。



「なんかお金まで用意してもらってる。両替もできちゃうなんて万能メカじゃん」

 


  備考・鰻丼1杯100文 寿司60文.そば16文

     銭湯の入浴料5文

     床屋・髪結床の利用料40文

     

     1両は当時の米の相場から算出。ここでは13万円相当。



「お金の管理はめんどいな。だからか、コレ確か貯蔵できるんだよな。さすがに4000文ジャラジャラと持ち歩きたくねぇな。3日生きて行くには有り余るな」


『ステータスはこまめに確認しておけ。状況の把握はすごく大事なことだから』


「これがステータス……か。なんかごっつう金持ってるよ?」


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