第3話 「人形」
Nさんの家には、十年ほど前から女の子の人形がある。Nさんは人形を、傷つかないように布にくるんで、棚に置いている。定期的に汚れを拭いてやったりもする。
人形をそれほど大切にするのには、理由がある。その人形は、Nさんの娘の五歳の誕生日に買ってやったものだ。Nさんはデパートではじめて人形を目にした時から、どこかで見たことがあるという気がしてならなかった。ありふれた造形と言ってしまえばそれまでなのだが、目鼻や服の感じに、はっとするような既視感がある。ひょっとすると前に似たのを娘に買ってやったことがあったのかもしれないと思いながらも、どうにも心惹かれて人形を購入した。
Nさんの娘は、人形を非常に気に入った。ままごとでは自分の子どものように世話を焼き、夜には一緒に寝た。Nさんは娘が人形をかわいがるのをうれしく思っていたが、その反面、「どこかで見たことがある」という疑念をぬぐえずにいた。疑念はやがて、確信に変わった。
Nさんはある日、古いアルバムの写真を整理していた。Nさんたち家族の、なつかしい思い出の写真がずらっと並んでいる。Nさんはそのうちの一枚に目が留まった。
それはNさんの娘が二歳の時の写真だった。Nさんの娘はソファーに座って、にっこりと笑っている。その様子が人形とびっくりするくらい似ていた。服も姿勢も髪型も、目鼻立ちも、人形の生き写しのようだった。
以来、Nさんは人形を大事にしている。「不気味には思いますけど、人形に何かあったら、娘にも悪いことが起きる気がして……」と、Nさんは困ったように笑う。
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